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名前が留学から帰ってくると、俺の毎日は色が変わったように明るくなった。離れていた分、彼女の近くに居られる今が本当に充実している。こんなに好きな気持ちが大きくて、いつか自分がどうにかなってしまうんじゃないかとさえ思えた。
そして、そうこうしている間に、俺たちの大学生活は残り一年を切っていた。
「本当に!?」
程よく賑わう店内。カウンターに並んで座っていた名前が、俺の報告を聞いて顔を綻ばせる。
「こんなに早く……しかも、そんな大手に内定するなんて、流石だね」
「うん、まあ、これでひと安心ではあるかな」
自分の事のように喜んで笑顔を見せる名前がほんとに可愛い。普段から裏表のない彼女だからこそ堪らない。誰よりも早く真っ先に報告して良かった、と心底思った。
「私も頑張らなきゃ」
「おう、気楽にな」
意気込む彼女にフッと笑いかけると、逆に名前は少し困り顔をした。え、と焦った俺は慌てて彼女の顔を覗き込む。
「……健司くんってほんとすごい」
「なんだよ、いきなり」
「バスケも出来て、勉強も出来て、就職だってちゃんと決めて……」
そこまで言って手にしたグラスを傾ける名前。酒に強くない彼女を心配しながら、続きを待った。珍しく弱気な様子が気になっていると、窺うようにして俺を見上げてくる。
「こんなに完璧な人の彼女が……私でいいのかなって」
(まったく、そんなことで悩んでんのかよ……)
ハァー、と大きな溜息をひとつ。いつもヒヤヒヤさせられるのは俺の方だ。絶対。ある意味振り回されてるのも俺。けどそれも仕方がないことだ。なぜなら。
「……バーカ。言っとくけど、俺が先に惚れたんだぜ」
俺が惚れて、俺が口説いて、ようやく付き合ってもらって。今だって捨てられないように必死になってて。それだけ、名前のことしか眼中にないのに。
だから自信持ってくれよ、とそこまで口にして、なんだか知らないけど顔が火照ってきた。何言わされてるんだ。
「ふふ……ありがとう、嬉しい」
「…………分かったならいい」
いつも心の中で思ってることを言葉にするのは、こんなに照れるもんなのか。
「健司くん、顔が赤いよ」
熱くなった体にビールを流し込んだ俺は、しばらく名前の方を向くことが出来なかった。