初恋大炎上 | ナノ
40



バイト先やら学校やらで、俺が名前と別れただなんてふざけた噂がまわってるらしい。またそんな根も葉もない話がどうして広がるんだと呆れてため息をひとつ。


「なあ藤真、合コン行かねえ?」
「は?」
「彼女と別れたんだろー!俺だってホントはお前に女の子が集中するから誘うのは嫌なんだけどさ」
「……誰が行くかよ」
「なんで!」
「そもそも別れてないし。別れるつもりもない」
「え、でも最近彼女と会ってねーのは事実だろ?いつもデートん時は朝からずっとにやけてたくせに、最近はそれも無いじゃん?」
「……うるせーほっとけ」


会いたくても会えないんだよ、とはわざわざ言わねーけど。最近はこういう誘いが多くて困る。それは友人だけじゃなく、学内の全く知らない子だったり……あとは、ちょうどいま目の前に現れた同じゼミの子だったり。


「藤真くーん!ねえ、よかったら今日の課題、一緒にやらない?」


いい加減うんざりしていた俺は内心では面倒に感じながらも、バレない程度に笑みを浮かべる。用があるからごめんと言えば、あからさまに残念そうな顔をされたが、フォローする気も、ましてや構う気などさらさら無い。言葉短に話を終え、さっさと家に帰った。

急ぐのには訳があった。何を隠そう、今日は、名前と電話の約束があるんだ。





『……健司くん、聞いてる?』
「あー、聞いてるって。良かったな、同じ日本人がいて」
『うん。けど、やっぱりちょっと寂しいけどね』
「……そっか」


電話越しに聞く名前の声は言葉通り少し寂しげで、それは表情を見なくても分かった。手紙でだいたいの近況は知っていても、こうして話すとやっぱり違う。久しぶりに聞く名前の声に、耳が少しくすぐったい。


『健司くんは……どう?女の子に囲まれてない?』
「なんだそれ。べつに囲まれたりしないって」
『……そうかなぁ』


まったくないという訳じゃない。寄ってくる子も多い。でもそれを俺が相手にしていないんだから同じことだ。名前に対してやましい事なんて一つもなかった。

これだけお前を想ってるんだから早く帰ってきてくれよなんて、頑張ってる名前には言えないけど。


「なにも心配いらないから」


俺にはこう言ってやるしか出来ない。というかむしろ、名前の方がどうなんだと聞きたい。そんなことを考えていたら無意識のうちに「男前の外人がいても気を許すなよ」なんて、嫉妬心丸出しで言っちまった。言ってから直ぐに後悔する。


(かっこわりー、……)


なんだか恥ずかしくて前髪をぐしゃりと掴む。こちらの姿が見えないのをいいことに、普段彼女の前では見せないような情けない顔で項垂れた。こんな電話口で、しかも異国の地にいる男にまで嫉妬するなんて。我ながら呆れる。

……なのに、しばらく黙っていた名前はクスクス笑いながら、「健司くんよりかっこいい人なんていない」だと。照れ屋でそういうこと滅多に言わないくせに、なんだよ急に!ああもう、顔熱い。

けどやっぱりこんなとき、触れることも抱きしめることも出来ないのは堪えるよな。本当、はやく帰ってこねーかな。


( 40/48 )
PREVNEXT


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -