初恋大炎上 | ナノ
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振り返った名前が本当に綺麗で、一瞬言葉に詰まった。よく化粧の映えた振袖姿にきっと振り返る男は多い。今日が成人式なんて日じゃなければ、どこかに隠して俺だけしか見れないようにしたいくらいだ。

高校時代、名前はどちらかと言えば大人しくて目立つタイプじゃなかったけど、それでも言い寄っていた男は何人もいて。……まあ、俺もその中の一人なんだけど。あの時は見る目がある奴にしか分からなかった名前の良さが、今は誰の目にも魅力的に映っている。恋人としてそれが誇らしい反面、なんだか面白くないような、自分でもよく分からない思いが胸の中に広がった。


「ねえ、健司くん。スーツすっごく似合ってるね」


名前に見惚れていると、彼女を褒めるどころか逆に褒められてしまった。なんだそれ。本当なら俺が先に言わなきゃいけねーことなのに。無邪気に微笑む名前を前に、俺は口をつぐんだまま。


(ああもう、可愛すぎる……いい匂いするし!)


堪らなくなった俺は、「来て」とだけ言って彼女の手を引いた。建物の影に連れてって、周りに人がいないことをサッと確認する。


「口紅……って、いま持ってる?」
「……持ってるよ?化粧道具はひと通り……」
「そう。……なら良かった」


いまいち質問の意図が分からなかったのか、こてんと首を傾げる名前。俺はその首にそうっと手を添えて、なるべく顔には触れないように唇を寄せた。こんなに綺麗にしてるのに崩してしまっては勿体無いから。

本当に、ただ唇と唇を合わせただけのキス。それだけでも俺の心臓はどくどくと脈を速めたし、それは彼女も同じようだった。

彼女の肩にある白いフワフワが頬に触れて少しくすぐったい。つい口元を緩めるとすぐに名前に伝わり、お互いにゆっくりと目を開けた。そうして少し離れると、目が合った名前がくすりと笑う。


「……付いちゃったね、赤」
「キスしたのバレる?」
「うん……」


俺の口に付いた口紅を見て、名前は顔をほんのり赤くした。ああもう。照れすぎだ。耳まで色付いてるのを見つけて、俺は目を細めた。付き合ってもう一年以上が経つというのに。いつまでも残る彼女の初々しさに、何ともいえない気持ちになる。

持っていたハンカチで赤を拭っていると、彼女も思い出したように口紅を取り出した。丁寧に塗り直された唇からそっと視線を外す。また触れたくなった。


「……今日の名前、綺麗すぎて困る」
「そ、そうかな……ありがとう」
「もっと手抜いてくれよ。心配になるからさ」
「ふふ、健司くんは心配しすぎだよ」
「名前は自覚が無さすぎ」


彼女の隣を歩きながら、式の後の同窓会やら二次会やらをどうやって抜け出そうかと、そればっかりを考えていた。


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