初恋大炎上 | ナノ
35



改札の前、約束の時間より早くそこに着いた俺は、構内に貼ってある広告やらを眺めていた。


「よう……珍しいな、藤真が俺より先にいるなんて」


待たせて悪かった、と口にした花形に気にするなという思いで片手を上げた。

お互いの近況報告をしながら、とりあえずどこかで飯でも食うかということになり、俺は近くのファミレスに花形を連れて行くことにした。
そういや名字とはどうなんだと聞かれて、なおさら丁度いいやと、ここでは何も言わず足早に店を目指した。



「……名字か?」
「!な、なんで花形くんが……」
「俺が連れてきた」


扉をくぐり、「いらっしゃいませ」と俺たちを出迎えた人物に花形は面食らっていた。規定の制服で店のメニューを小脇に抱えた名前の姿は、前に見た時よりもだいぶ様になっているように思う。ていうか、贔屓目を抜きにしても、かなり似合っている。

来るなら言ってよと眉を下げる名前に、ごめんと軽く謝った。


「へえ、名字のバイト先だったのか。似合ってるよ、その制服」
「えっ……あ、ありがとう。花形くんに言ってもらうと、悪くない気がする、かな」
「もっと自信持てばいいのに」


照れる名前と楽しげに笑う花形。この男は本当に抜け目がないというか、そつがないというか。大抵の女が喜ぶだろう言葉をサラッと言うんだよな。

そんな面白くない光景に頬杖をついていると、店のチャイムと同時に他の客が入ってきた。俺たちに断ってそっちの対応をしに行った名前をぼうっと眺めていたら、向かいからクスクス笑う声が聞こえてくる。もちろん花形だ。


「……なんだよ」
「いや、相変わらず、お前は名字ばかりを見てるのかと思って」


たしかに花形の言う通り。俺はいつでも名前を目で追っていた。それは付き合いだしてからも変わらず、会ってないときでも彼女のことを考えることが多いし、自分でも自覚してるほど名前のことを想ってる。


「まあとにかく、仲良くしてるみたいでよかったよ」
「ハハ、何だそれ。お前、発言が母親みてーだな」
「母親?……せめて兄貴ぐらいにしてくれよ」
「じゃあその兄貴は、浮いた話のひとつもねえのか?」


自分はどうなんだと聞いてみると、「…まあそれなりに」とハッキリしない返事が返ってきた。どうせ花形のことだから相手に困ることは無いんだろうけど。


「名字みたいな子がいたら、迷わず口説くんだけどな」


そう言って笑う花形の顔は明らかに俺をからかうつもりのもので。その手には乗るかと聞こえないフリをしておいた。ていうか、お前、やっぱり名前のこと気に入ってんじゃねーか。


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