初恋大炎上 | ナノ
30



「またお前はなんて顔してるんだ」
「……花形か。何か用?」
「別に?その鬼みたいな表情が気になっただけで」
「いま俺は怒ってるんだよ」
「……まあ、大体の予想はつく」


ぶっきらぼうな態度の俺に、やれやれと首を振り、溜息をついた花形。今は何でもお見通しの花形にさえ苛立つ。


「いいから早くその顔なんとかしろ」


お前に言われなくたって、俺の顔を見た人間がみんな目を丸くしてるのくらい分かってるっつの。それも鬱陶しいんだけど。


「お、おい藤真……」


まだ呼び止めようする花形。放っておいてくれという気持ちで振り向くと、そこには予想外の人物がいた。


(名字……いつの間に、)


名字と二言三言話した後、花形は教室に帰っていった。去り際の意味ありげな笑みが気になるけど、それよりも俺を見上げる名字だ。俺が黙ったままでいると彼女は後ろ手に持っていた何かを差し出した。


「これ、作ったの。その……パフェのお詫び、なんだけど……」


ついさっきまで俺が望んでいたそれが目の前にあった。というのは大袈裟だとしても、名字の手作りクッキーが嬉しくない訳がない。それに、パフェのお詫びだって?あんなの、俺が勝手に言ったことだぞ?気にする必要なんてねーのに。ぐるぐると回る思考とは他所に、勝手に伸びてしまう手。透明の包みを受け取り彼女の顔を見下ろす。目尻を赤くして、俯く名字。これは照れてんのか?けど、名字はこれを高野にも渡したんだ……その事を思い出すと、素直には喜べない自分がいた。そして無意識のうちに心の声を口にする。


「高野の、ついでに……?」


言ってしまってから後悔した。これじゃあ嫉妬まる出しだ。かっこ悪い。目を逸らしていた俺の耳に、いつもより少し低い名字の声が聞こえた。


「違うよ…高野くんのあれは、自分用ので…」


最後の方をよく聞き取れなかった俺が「え?」と聞き返すけど、彼女はそれ以上何も言おうとはしなかった。


「とにかく、渡したからねっ」


彼女にしては珍しく語尾を強めた言い方。向けられた背からはどこか怒りや悲しみのような感情が見えた気がした。




「なんだよ藤真、また貰ってきたのか?モテる男は違うねぇ」


席に戻ると、まだそこにいた高野は名字に貰ったクッキーを食べていた。高野がちょうど手にしていた丸型のそれを凝視する。そして、自分がついさっき受け取ったものと見比べると、ある違いがあった。


(高野には普通ので……俺のは、ハート型だ)


なにやら色々と言ってくる高野を適当にあしらいながら、俺は包みの中に入っていたクッキーをひとつ手に取り、これでもかと頬を緩める。そのままパクリと口に放れば、サクサクと小気味いい音を立て、程よい甘さがどこまでも広がる。そうして残りは大切に鞄の中に仕舞った。

こんなことで機嫌が直ってしまうのだから、それだけ名字の影響力は大きいんだな。とりあえず、あとで彼女に謝りに行って、言いそびれた礼を言おう。


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