02
彼女のフルネームは名字名前というらしい。
『……高野くん、だよ』
あの日、放課後の教室で聞いたのは、名字の好きなヤツが高野だということ。勝手に聞いておいてあれだけど俺は正直「へえ、そうなのか」くらいにしか思わなかった。
(お……名字がまた来てる)
最近気付いたけど、彼女はよく目立たない所からバスケ部の練習を見学していた。それを見つけたのは、あの放課後から何日か経った頃だ。廊下とかでもたまに見かけることがあって、なんとなく目で追っていると、どうやら隣のクラスということが分かった。
(それにしても……なんで高野?)
いや、高野はいい奴なんだけどな。どっちかっていうと女子に人気があるとは言えないから。まあひとの好みとか、好きになるきっかけなんてそれぞれだから別にいいか。
「藤真?なにぼけっとしてんだ?」
「いや、今日も見学の女子が多いなと思って」
「どうせほとんどお前か花形目当てだろ」
「んー……そうでもないみたいだぞ」
「?」
頭にハテナを浮かべて首を傾げる高野の背をバシッと叩く。さっさと練習に戻るぞと言えば、お前がサボってたんだろ!と軽く怒られた。はいはい俺が悪かったよ、と適当に流して、もう一度名字の方を見る。その視線は真っ直ぐに高野の方を向いていて、それなのに高野が全然気付いてないのがなんだかちょっと笑えた。
名字には悪いけど、わざわざ高野に伝えてやったりするつもりはない。その代わり邪魔しようなんて思ったりしないから、まあせいぜい頑張れよと心の中だけで彼女を応援した。