初恋大炎上 | ナノ
28



昼休みになる頃には、いつかと同じように学校中が甘い匂いに包まれていて、またどっかのクラスが家庭科で何か作ったのかとぼんやり考える。

そのうち一人の女子から「藤真くん!」と声をかけられたのを皮切りに、入れ替わりでクッキーを持ってくる子が絶えなかった。名字のことが好きだと公言した俺になんでわざわざお菓子を渡しに来るのか不思議に思ったけど、それは次の言葉で納得する。


「試合、惜しかったね」


先日の決勝を観に来てくれていた子は存外多かったらしい。僅かの差で敗れ、言い知れない悔しさに涙したことを思い出す。試合後、目が合った俺に何も言わず微笑んだ名字の顔が忘れられなかった。


(そういやあれから会ってない……)


少しの寂しさを飲み込んで、逸れていた意識を目の前の子に戻す。


「かっこよかったよっ」
「……ありがとう」


次々に掛けられる労いの言葉にお礼を言い、またひとつクッキーを鞄にしまった。そんな光景を、クラスの友人たちはいつものことだと特に騒ぎ立てることは無い。


(これ、食い切れねえぞ……)


バレンタインかと思うほどの量を前に、溜息をひとつ。さてこのクッキーをどうしたものかと頬杖をついた俺の所へ、何故か上機嫌の男がにやにやとした笑みを浮かべてやって来た。


「何だよ、高野」
「お前が名字に惚れるの、分かったかも……」
「……は?……はぁっ!?」


急に近付いてきて何を言い出すのかと思えば。こいつの口から名字の名前が出て来たのが予想外すぎて頭が真っ白になった。

固まったままの俺には気付かず、空いている隣の席に座った高野。そこでようやく俺の顔を見て、「何驚いてんだ?」と首を傾げる。


「お、お前こそ、急に……何言って……」
「いやさあ。さっき名字と初めて話したんだけど」
「名字と……話したのか」


たったそれだけのことで俺の心臓は嫌な音を立て、思わずゴクリと唾を飲み込む。高野の機嫌の良さが、なおのこと俺を焦らせた。


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