26
廊下を歩いていると、窓から中庭を眺めている名字がいて俺は迷わずそちらに足を向けた。何を見ているのか気になって探ってみると、彼女の視線の先で数人の男子生徒がバレーをしていた。そしてその中には嫌でも目立つ長身の男が混ざっていて。
(高野を、見てたのか……?)
それが分かった瞬間、腹の底からどろりとした何かがせり上がってきた。けどすぐに頭を振って自分の中の嫉妬にフタをする。名字の前でこんな感情は見せたくないから。
それでも、俺以外のやつを見てるのがやっぱり少し悔しくて、悪戯でもしてやろうと俺は静かに名字の背後に近付いた。すぐ後ろに立ち、背中を屈めて彼女の肩にそっと顎を乗せる。
「わっ」
「!、ひぃっ」
なかなかの密着度に自分から仕掛けたくせにちょっと緊張した。名字は小さく悲鳴をあげて全く動こうとしなかった。
(もしかして、引いたか……?)
名字があまりに動かなくて、途端に焦り出す俺。どんな様子なのか不安になって、今度は隣に移動して顔を覗き込んだ。
(なっ……!)
「…………」
「…………」
目が合って、思わず一歩後ずさった。なんだそれ。名字はこれでもかと顔を真っ赤にして、ジト目で俺を睨んでいた。勘弁して欲しい。目とかちょっと潤んでて可愛いにもほどがあるんだけど。
「……一応聞くけど、怒ってる?」
「よくお分かりですねっ」
「ハハ、ごめん」
「みんな見てるし!恥ずかしいん、だから!」
「次からは人がいねーとこでやる」
「そういう問題じゃなくてっ……」
涙目でまくし立てる名字に、俺は笑みしか浮かんでこなかった。怒っても怖くなさすぎだ。まさかこんな反応をされるとは思ってなかった。彼女の元々の照れ屋を差し引いても、これは少しは俺のことを意識してくれてるんだと分かる。これが嬉しくないワケがなくて、どうしてもニヤける口元を手で覆い隠した。
腹の中にあった嫌な気持ちは、いつの間にか消えて無くなっていた。