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その日、一志から嫌な話を聞いた。
「名字が……告白されてた!?」
俺は驚きのあまり、こくりと頷いた一志の両肩をガッと掴んだ。一志は普段あまり表情を変えない男だが、この時ばかりは目を丸くしてそれから困ったように眉をハの字にした。落ち着け、と言われて手の力を緩める。
なんでも偶然通りかかった校舎裏で、名字が剣道部の奴に呼び出されていたのを目撃したらしい。俺は話したことないけど、男前で人気がある奴だとかなんとか。
ちょっと待てよ名字ってついこの間も告白されてたよな?誰だよ名字のこと地味とか言った奴。ていうか、俺以外にも名字を好きな奴がいるんだ……いやまあ、そりゃいるよな。好きになるだろ普通に。現に俺だって好きなんだから。むしろその剣道部のイケメンは見る目があるってことだ。
(……って、そんなこと言ってる場合か)
俺が一人で頭を抱えている間、一志は向かいでじっと待ってくれていた。ようやく我に返って「……名字の返事は?」と恐る恐る聞いてみると、静かに首が振られた。つまり彼女はイケメンの告白を断ったということで。それを見てひとまず安堵の溜息を吐く。
「お前が名字を好きだって噂が広まって刺激されたのかもな」
「まったく……先が思いやられる」
「……藤真はもう告白したのか?」
「ん……まあ、断られたけど」
「上手くいくといいな」
「おう」
両腕を胸の前で組んで、フンと鼻を鳴らす。そんな俺を見て一志は小さく笑い、俺の肩にポンと手を置いた。