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「それで、名字には何て振られたんだ?」
にっこりと笑って眼鏡を光らせた花形。校舎の屋上で二人、フェンスにもたれながら弁当を食っていた。
「……ふつー聞くか?そういうこと」
「俺は聞く」
「いい性格してるよな」
「それはどうも」
フン、と呆れた視線を送ると、「それで?」とまた同じ質問をしてきた。親身になって聞いてくれるのは嬉しいけどこう楽しげにされると、茶化されてる気がしてなんだかな。
「今は考えられない、ってさ」
「……高野か」
「……」
あの日、俺の告白に少し傷ついた顔をした名字を思い出す。そんな顔をさせるのは俺か、それともまだあいつのことを想っているからなのか。
(まあ……仕方ないよな。そんな簡単じゃないって)
小さな声でごめんなさいと呟かれた言葉を、不思議と冷静に受け止めていた自分がいた。申し訳なさそうに謝った彼女を前にして俺の胸に浮かんだのは、諦めるとかそういう気持ちじゃなくて。時間をかけてでも、そのうち絶対に振り向かせてやるという強い想いだった。
名字は続けてお礼を言ってきた。廊下で俺とぶつかったとき、俺が連れ出したおかげで楽になったからと。本当に感謝してると。そんなこと言われたら、余計に諦めるわけにはいかないだろ?
『今は無理でも……お前の気が変わるのを待つよ』
『っ……!』
まあ、待つだけじゃなくて行動もするけどな。と口角を上げた俺に、名字は困った顔をして笑った。今はぎこちないその笑顔もきっと本物に変えてやる。高野を忘れさせて、最後には俺を選ばせてみせる。
「それにしても……藤真に追われる名字は大変だろうな」
花形が言ったそれに、食べ終えた弁当箱を片していた俺の手が止まる。どう言う意味だと見上げれば、ただ「気にするな」とだけ返事が返ってきのでそれ以上聞くのはやめた。