18
日直なんて面倒なだけだ。いつもより色んなことに気を遣わなくちゃいけないし、こうやって雑用は押し付けられるし。
(よし。これで終わりっと……)
頼まれたことを片付けてさっさとその人気のない教室を後にした。その帰り道、どこからか聞き覚えのある声がして俺は辺りを見回す。
「話ってなに、かな?」
「……この間の雨の日、名字さんと藤真くんが一緒に帰ってるのを見た子がいてさ」
「藤真くんのこと、好きなのかなって」
耳をすますと、窓のすぐ外、中庭から聞こえてくるのは俺の想いびとの名字とそれ以外の女子の声。お友達って訳じゃなさそうだし、お世辞にも雰囲気が良いとは言えない。というか、俺と名字が一緒に帰っちゃ悪いのかよ。
(……何なんだ、あいつら)
内容が内容だけに立ち聞きは気が引けたけど、もしこれが女子特有の「呼び出し」みたいなもんだとしたら、放って置けないと思った。
「えっと……その、好きっていうのは恋愛の意味、だよね」
「当たり前でしょ」
「それで、どうなの?まさか付き合ったりしてないよね?」
女子たちの言葉は、冷静なように見せてその端々に刺々しさが感じられた。名字を責め立てているように聞こえる。女子って本当に怖い。大抵の子は、男の前ではそういうのは出さないから。
これは、さりげなく登場して名字を助けた方がいいのか?勘違いとはいえ、俺のせいで反感を買ってしまってるようだし。
「つ、付き合ってはないよ!」
「じゃあ……好きっていうのは?」
「それ、は……」
校舎の影にいるから名字の表情は見えてないけど、きっと眉を下げて困り顔をしてるに違いない。って、今はそんな想像してる場合じゃなかった。けど、名字が俺のことどう思ってるかは、聞いてみたい気もする。あー……でも、やっぱり盗み聞きはよくねーよな。
腕を組んで頭を悩ませても、どうしたらいいかなんて俺には分からなかった。それに、なんだか考えるのがまどろっこしく感じてきて。顔も名前も知らない女子に「まさか付き合ってないよね」なんて言われたのも癪だった。
「……あのさ、俺が名字と仲良かったら駄目なわけ?」
後先考えずに割り込んだ俺を、名字の驚いた顔が振り返った。