初恋大炎上 | ナノ
12



廊下を歩いていると曲がり角で勢いよく何かとぶつかった。


「……っ、!」
「うおっ!!」


ぶつかった、というより俺の胸に何かが飛び込んできた、の方が正しいか。普段から部活で鍛えてる俺でも流石に受け止めきれず、そのまま尻餅をついた。痛えな。前も見ずに走りやがって危ねえだろ。一体どこのどいつだ……って、


「……名字?」


文句を言いかけた口をすぐに閉じた。そうして恐る恐る声をかけると、俯いていた名字が俺の胸の中で顔を上げる。つい最近、彼女の事を意識するようになったところだ。そんなタイミングで目の前に本人が現れたんだから、そりゃ驚きもする。

至近距離で目が合った俺は、ギョッとして目を丸くした。慌てて彼女の肩を掴んで少し離す。


「お、おい……どうした?」
「っ……な、なんでも、……ない」


すぐに俺から視線を逸らした名字だけど、その目からボロボロと流れる涙を見てしまった俺は、どういうことだと頭の中でパニックを起こしていた。え、なんで泣いてんだ。ぶつかったのがそんなに痛かったのか?それとも誰かに泣かされた?聞きたいことは山ほどあったけど、誤魔化すように乱暴に目元を拭って「ごめんね」と謝った彼女に何も言えなくなった。名字が飛び出して来た方を見ると、廊下の奥で誰かとじゃれ合う高野がいて。友人の逢瀬なんて見ていられなくて俺はすぐに目を逸らした。


(そういうことか……)


すぐに状況は理解した。この様子じゃ、高野に彼女が出来たことをたった今知ったんだろう。それがショックで泣いて、でもそれを俺に見られて隠そうとして。目も真っ赤に腫らしてさ。名字のその健気な姿に胸がきゅん、と高鳴る。

なんて声をかけようか。慰めや励ましの言葉は野暮ったいだろうか。いくら頭の中で考えても正しい行動が思い浮かばない。ただ、このまま名字を放っておくことだけは出来なかった。


「……行こう」
「?ふ、じまく、」


彼女の手を引いて、俺はずんずんと廊下を突き進んだ。



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