どうですか?
長かったリハビリを終えてようやくこの天才が湘北バスケ部に戻ることになった。
晴子さんのマネージャー姿を見て癒されながらバスケットに励む中で、俺はついに晴子さんに告白することにした。
(今ならイケる気がするんだ!天才だから!)
「晴子さん!おおお、俺と付き合ってください!・・・イカン、練習で失敗してどうする俺」
練習の大切さを誰よりも知っている俺は、まずは誰もいない屋上で練習することにした。洋平たちに見つからないようにしないと、茶化されるのは目に見えてるからな。
「桜木君、告白の練習?」
人の声が聞こえて咄嗟に周りを探すと、屋上の入り口から女生徒が顔を覗かせていた。
「名前さん!どうしてこんなところに・・・」
私もたまには授業サボりたくなるんですよと微笑むのは同じクラスの名字名前さんで、よく課題を手伝ったりしてくれる俺の頼れる存在だ。
晴子さんがいなかったら確実に惚れている自信がある。なかなか可愛い人だ。
「せっかくだから、私が練習相手になりましょうか」
俺を見上げるその顔は至ってまじめな顔で。それは彼女と課題をしてる時に、「その問題教えましょうか」と言われるくらいに自然なものだった。だからだろうか、何も考えずに俺は頷いていたのだ。
「まだまだ硬いですね」
告白に成功したことがない俺は、必死に名前さんのアドバイスを聞いた。やはり、彼女は頼りになる。洋平やバカ3人とは大違いだ。
「硬いですか」
「晴子さんの事は存じませんが、一般的にはもう少し自然体な告白の方が好まれるでしょう」
「む。自然体・・・」
「爽やかさがあればなお良いですね」
「・・・難しいな」
さあ、もう一度。
俺は晴子さんを前にしてるつもりで、名前さんに何度目かの告白をした。最初よりは照れも恥ずかしさもない。
「あなたの事が大好きです。俺と付き合ってくれませんか」
「・・・私もあなたが好きです」
「えっ?」
俺の目を見たままそう言った彼女に、俺は一瞬固まった。
(い、いいい、いま、好きって?)
何て言っていいのか分からずに、じっと待つ俺。天才にもどうしたらいいのか分からない時ぐらいあるのだ。
「なんて、ふふ。いい結果のイメトレも必要でしょう?」
「あ、ああ・・・なんだ、イメトレか」
ハハッ!驚かさないで下さいよ!
俺がその冗談に笑うと彼女も目を細めて笑っていた。
さっきはビックリした。その証拠に俺の心臓は少し早くなっていて。まったく、名前さんのお茶目は心臓に悪い。
「その調子です。気楽に気楽に」
それからもう少しだけ練習したところで、授業が終わるチャイムが鳴った。部活がある俺は体育館に向かわなくてはならない。なんせ俺がいないと湘北バスケ部はどうにもならないからな。
(ハッハッハ!)
「もう時間ですね」
「そうっすね。なんか大丈夫な気がしますよ!名前さんのおかげです!」
「お役に立てたなら良かった」
「俺、明日にでも告白します!」
「上手くいくといいですね。あ、そうだ・・・」
屋上から教室に戻る階段の途中で彼女が立ち止まった。俺はそのまま何段か降りてふり返る。ちょうど、俺と彼女の視線の高さが同じになっていた。
「保険と言ってはなんですが・・・」
珍しく俺の目を見ない彼女の様子がいつもと少し違う気がした。
それはどこか、俺が晴子さんを前にした時の緊張に似ているような、そんなふうに見えた。
「もし断られた暁には、」
(あ、暁には・・・?)
ゴクリと唾を飲む音がやけに耳に響いた。
「私に乗りかえるっていうのは、どうですか?」
無意識に握っていた手には、試合の時みたいな手汗をかいていた。