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君に勝つ方法


 誰が言い始めたか、どこからともなくでてきたカードでババ抜きに耽る高校生の男女6人。昔からの腐れ縁の中、紅一点の名前は序盤から一向に減る気配のない手札に焦りを感じていた。
 負けたら全員の言うことを1つずつ聞く。メンバーの中で勝負にありがちでベタな取り決めをしていた。どうせ大したことない罰ゲームだろうけど、勝負をする以上は負けたくないと思うのが人の本能というもので。


「ちょっと望ちゃん、力入れすぎ!カード引けないじゃん」
「隣の方がおすすめだぞ、名前」
「そう言ってジョーカー引かせる気なんでしょ!?」


 順番が回ってくる度カードに小細工を仕掛ける高宮は、名前と何回目か分からない攻防を繰り広げていた。そして我先にと手札を揃えていき、ついに最後の2枚を手放す。


「……相変わらず弱いよなァ、名前は」
「顔に出過ぎだぜ」


 プクク、と笑いをこぼすのは、先に上がっていた大楠と野間。そちらへ文句を言う暇もなく高宮が上がり、残るは桜木と水戸と名前だったが。「花道だけには負けたくないぃ…」と上目遣いで睨み付ける名前に対して、ニヤニヤと口角を上げる桜木。


「ババ抜きに関しては名前に負ける気がせん!!…あ、イヤ、勝負は何だって負けねーけどなっ」
「確かにな」
「もうっ…洋平までそんなこと言う!!」
「そら、花道が引くぞ」


 水戸に向かって伸ばされた手は迷いなくカードを引き、そしてくるりと見せられた2枚のカードは同じ数字が揃っている。「やはり天才…」としみじみしている桜木を横目に、名前は水戸へと向き直る。今ので桜木が上がり、残る2人を4人が茶化しながら見守っていた。
 自分の手元には嫌味な笑顔を向けるピエロが描かれたジョーカーと、ハートの10が残っていた。つまり水戸の手元には、すでにカードが1枚。


「知ってるか、名前」
「何を?」
「相手にカードを引かれるとき、お前は必ずジョーカーを見るんだぜ」
「えっ……!!」
「あーあ、洋平が教えちまったよ」


 なんとも初歩的なカラクリを明かされ目を見開く名前。まさか自分がそんな間抜けな行動をしていたなんて、と本気で驚く。外野ではエトセトラが「もったいねーな」と種明かしを残念がる声が聞こえる。
 しかし名前とて馬鹿ではない。それを聞いてなおジョーカーを見る訳がなかった。


「じゃあ見なければいいってことでしょ?ほら、これでどうよ!!」


 これならどちらがジョーカーかは分からないだろう。名前は全てを運に任せ、2枚のカードを突き出した。ぎゅっと瞑った目の向こうでは水戸が笑う気配がしている。


「……馬鹿だな名前。こういうのは目を逸らした方の負けなんだ」


 正確に言えば、逸らしたのではなく瞑っているのだが。水戸の呟きに対してどういう意味?と名前は疑問符を浮かべた。いや、浮かべようとした。


「…………ぅ、むっ??!」


 瞼の裏で影が動いた瞬間。名前の唇に一瞬だけ触れ、離れていった気配。誰かなんて考えるまでもないが。
 ヒュー、と吹かれた数人分の口笛を合図に名前はパチリと目を開けた。直後にカードが1枚、手元からすっと抜かれていった。


「えっ……え、え?」
「お前の負けだ」


 水戸の手には沢山のハートが並んだカードが2枚。そして自分の手には1枚のピエロ。


「……てことで、負けた名前は俺と付き合ってくれるんだろ?」


ニッ、と笑う水戸が、手元のピエロの不敵な笑みと重なって見えた。



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