SHORT | ナノ
夢かうつつか


 高校時代の懐かしい夢を見た。

 信長と付き合い始めたのはまだ私たちが海南高校に通っていた頃だ。
 私はバスケ部とは何の関係も無かったが、たまたま信長と同じ電車で通学していたらしく、一目惚れをされた、というのが私たちの始まりだった。駅のホームのど真ん中、緊張のあまり大声で告白されときは私もパニックになって、すぐさまお断りしたのを今でも鮮明に思い出せる。


「ん……もう朝、……」


 そんな青春時代もとうに過ぎ、大人になった私の隣には、あの頃よりもグッと成長した姿の信長が気持ちよさそうに眠っている。
 昔から背が高かったけれど今はさらに伸び、縛るほど長かった髪は短くなっている。けれど、キリリとした目鼻立ちや眉は相変わらず。当時は少し子供っぽかった性格は幾分落ち着いたものの、いい意味で残っている部分もある。いい男に成長したよね、なんて自分の恋人を眺めながら、私は満足げに微笑んだ。


「そろそろ起きないと……」


 昨夜は仕事終わりに信長と食事をして、そのまま彼の家に泊まっていた。夜遅くまで求め合った余韻が心地良くもあるが、気怠さもあった。からだを起こし、剥き出しの肌にシーツを手繰り寄せる。その時、首元に何かの存在を感じた。


「あれ?」


 手で触れて、それから目でも確認する。自分の首元に存在する身に覚えのないネックレスが、カーテンの隙間から差す太陽の光に反射して輝いた。細かなチェーンと小振りながら品を感じるペンダントトップがとても綺麗だと思った。


「あはは、誕生日でもないのに……何のサプライズ?」


 未だ眠っている彼の仕業であることは明らかだが、誕生日でもなければ記念日でもないのに、贈り物をされる理由が分からなかった。けれど、恋人からのプレゼントが嬉しくない訳がない。


「信長……まだ寝るの?」


 早くお礼がしたいのに、という気持ちを込めて彼の頬を撫でる。少しくすぐったそうに眉を顰めた信長は、一瞬目を開けて、すぐにまた閉じた。そろっと伸びてきた手が私を腕の中に閉じ込め、耳元で「んんー」と寝ぼけた声を出している。これは起きないな、と諦めて彼の胸に擦り寄ると、ぎゅう、と抱きしめる力が強くなった。そして次の瞬間、私の心臓がどきりと高鳴る。


「それ、プロポーズの、やつ……」
「……え?」


 プロポーズのやつって?と、驚きで信長を見上げても、その目はやはり閉じたまま。


「えっと……つまり、そういうこと?これ、プロポーズ、なの?」
「ん……名前、結婚……して」
「…………」


 なんて衝撃的な寝言なんだろう。プロポーズをしてくれるだなんて、嬉しいことの筈なのに。寝ぼけた信長を前に私はなんとも言えない顔をしていた。相変わらずここぞという時に決まらないなぁとか、いつまで寝るつもりだ、とか。言いたいことは色々あったけれど。信長の広い胸の中で穏やかな鼓動を聞いているうちに、なんだかどうでも良くなった。
 むしろ、とても彼らしい。


「……起きて焦っても、遅いからね」


 ふふふ、と溢れる笑みをそのままに。彼が起きたときに何て言おうかな、と一人で考えながら、私も静かに目を閉じた。




「あああっ!!俺っ……マジかよ……やらかした?どっち?なあ名前!!さっきのって夢?セーフか!?」


 お昼過ぎになってようやく目を覚ました信長は、先程の記憶がぼんやりと残っているらしく、大慌てで私を覗き込んだ。にこにこ笑う私の前で顔を青くしたり赤くしたりする姿が、とてつもなく可愛かった。
 私はスッと両手を伸ばし、信長の首に巻きつけた。まだ慌てている彼の耳元に口を寄せ、囁く。


「嬉しいからセーフだよ」




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