SHORT | ナノ
幸福連鎖


( あなたの手にかかればこんな痛み 続き )


あれから私と幼馴染の関係はというと、なんやかんやの出来事があり、紆余曲折を経て、晴れて両家公認の恋人同士となったわけである。

ただ、彼氏彼女になったからといって日常生活が大きく変わるようなこともなく。基本的にはいままで通りの距離感で、たまに冷やかされながらも、相変わらずの家族ぐるみのお付き合いが続いている。


「……え、一週間も?」
「おん。遠征先が海外やからな」
「海外……!豊玉バスケ部、すごいな」


ここ最近、部活で忙しそうにしている南さん家の烈くんが、久しぶりに名字家へ遊びに来ていた。部屋に来るなり私のベッドを占領し、そこへもたれかかる私の髪を勝手に触ってくる。昔からこの位置関係が私たちのお決まりで、付き合い始めた今でもそれは変わらなかった。

お年頃の男女だし、女の子の部屋のベッドに寝転ぶなんて、と変に勘繰ってしまうような体勢だが、そこはまだまだ清いお付き合いをしている私たち。というか、両家の親から卒業するまで手を出すなと釘を刺されているため、それを烈が忠実に守っているってだけなんだけど。


「ほんならしばらく会えへんね」
「まあ……そうやな」
「海外なんか、遠すぎて寂しいんちゃう?電話も出来へんやろうし。泣きなや烈くん?」
「…………あほか」


少しからかうつもりで烈の方を振り向くと、呆れたような眼差しで返された。

「名前こそ、泣いても知らんからな」そう言ってむに、と掴まれた頬。そうしてそのまま触れるだけの軽いキスをされた。もう何度目かのキスに、私の心臓が鼓動を速くする。幼馴染にこんなにドキドキするだなんて、前までは想像すらしていなかったのに。






「はぁ……まだなん?」


別にもともと毎日一緒にいる訳じゃないし、正直一週間くらい会えなくてもどうって事はないだろうなんて思っていた私は、その考えを撤回することになった。

烈の顔を見なくなって3日、4日、と日を重ねるごとに、なんとも言えない寂しさを感じるようになった。5日、6日。あと少し。

学校で友人たちといるときも、家で家族といるときも。ふとした瞬間に考えるのは彼のことで。時差的に今は寝てるかなとか、バスケで怪我してないかとか、考え出すと色々心配してしまったり会いたいと思ってしまったり。恋をする事でこんな風に変わってしまうのかと、少し自分に驚いた。


「名前、烈くん帰ってきたって」
「っ、ほんま?!」
「わあ嬉しそう。若いってええなぁ」
「もう!からかわんとってお母さんっ」
「はいはい。さっさと顔見に行っといで……って、もうおらんのね。フフフ」


幼馴染の帰りを指折り数えて待っていた私は、母の知らせを受けてすぐに家を飛び出した。遠征から帰ってきっと疲れているだろう彼には申し訳ないが、それでも会いたくてたまらなかった。


「烈、入っていい?」


玄関で出迎えてくれた幼馴染のお母さんと少し話して、快く家に上げてもらった。はやる気持ちを抑えて、ひと呼吸してから彼の部屋をノックした。


「……なんや、早かったな」


ガチャリとドアが開き、目の前には会いたくて堪らなかった烈がいる。


「あ……おかえり、お疲れ様」
「ただいま」


まだ制服姿のままの烈を見て、申し訳ない気持ちが湧いてきた。流石に来るのが早すぎた。そう後悔するも、目の前に烈がいるという光景に口元がゆるゆるとにやけてしまう。

くるりと背を向けた烈は自分のベッドに腰掛けて、「そない急いでなんかあったんか?」と私の方を見た。不安だった気持ちが伝わってしまったのかもしれない。私はいつもの何倍もしおらしく俯き、それからそっと彼の隣に腰掛けた。久しぶりに会えた今日くらい、素直になってもいいかもしれない。


「……つよ、し」
「ん?」
「あの、だ、抱きついてもええ?」
「…………おう」


別にキスだってハグだってしたことあるのに。改めてお願いするのはなんだか照れ臭くて、つい小声になってしまった。

烈は一瞬驚いた顔をしたあと、すぐにいつもの仏頂面で返事をくれた。それが照れ隠しだということは子供の頃から知っている。


「言うとくけど、汗臭いぞ」
「気にならへんよ」


隣同士、並んで座ったまま、そっと烈の胸に顔を埋める。すう、と大きく深呼吸をしながら、広くて鍛えられた背中に手を回した。あったかくて、すごく癒される。私の背にも烈の腕が回ってすっぽりと包まれる体勢になった。

そういえば自分から抱きついたのは初めてだな、なんて考えながら、私は思う存分南 烈を堪能した。


「うん……落ち着いた、ありがと」


そろそろ離れないと恋人がゆっくりできないだろうと思い、そっと腕を解く。上機嫌の笑顔で彼を見上げようとするが、ぎゅううと力を込めて抱きしめられ叶わなかった。


「……烈?もう大丈夫やけど?」
「いや、俺がまだやから」


頭の上から聞こえた声に、カァッと耳が熱くなる。


「……あ、そう、なん」
「俺かて寂しかった」
「うん……」


いつもはクールなくせに。寂しいなんて言う男じゃないくせに。

普段とのギャップを感じて悶える私は、その後もしばらく抱きしめられたまま。彼の母が悪気なく部屋にやってくるまで、心地いい鼓動を感じながら、その温もりに包まれていた。



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