SHORT | ナノ
言い勝ち功名


先日終わった冬の選抜。私がマネージャーを務める海南は危なげなく好成績を残すことが出来た。それと同時に3年の先輩たちは引退し、今日はOBとなった彼らがさっそく新チームの様子を見に来てくれていた。

部活が終わり、途中まで同じ帰り道の牧さんと一緒に歩く。つい最近までは毎日こうして並んでいたのに、彼が引退してからはそれも無くなっていた。
練習終わりの遅い時間じゃ危ないからと言ってわざわざ私の家まで送ってくれていた事がひどく懐かしく感じられる。それと同時に、なんだかそわそわしてしまうのは、私が牧さんを好きだからだ。


「・・・牧さん」
「なんだ」


バスケでは全国区のプレーヤーで勉強が出来て、見た目もワイルドでかっこよくて、それなのにサーフィンなんて小洒落た趣味もあって、先輩の人生はそれはもう順風満帆ってやつで。そこらの凡人とは、きっと違くて。


「先輩って、モテますよね」
「そうか?」
「そうやってさらりと返すところもかっこいいんです」


どれだけすごくても、秀でていても、それを鼻にかけないところが好き。


「自分では分からないだけだ。そんなに膨れっ面をするな。可愛くないぞ」
「わかってますよそんなこと」
「どうしたって言うんだよ」


ひねくれた物言いしか出来ない、素直になれないから。私はいつも、どこかで焦ってる。いつも彼のことを考えてしまうから。追いつきたいのに、追いつけないから。このもどかしい気持ちを、どうにもできないから。


「・・・ました、ね」
「ん?」


周りの人たちが、彼を放っておかないから。私以外のたくさんの人が彼に惹かれているから。

私は俯いて、歩みを止めた。
それに気づいて彼も立ち止まる。


「お昼休み、告白されてましたね・・・階段のとこで」


やっとの事でそう絞り出した。なんだか、のどがひどく渇いてる。


「告白・・・ああ、あれなら断ったぞ?」
「知ってます」

全部見てたもの。大人っぽくて、とても綺麗な人だった。どうしてあんな場面を見てしまったんだろう。
タイミングの悪い自分が恨めしい。


「どうして牧さんは彼女を作らないんですか」


いっそ、彼女がいれば、このもどかしい気持ちにも見切りをつけれるのに。どうして。


「・・・彼女ねえ。とくに必要を感じなかったからじゃないか」


その一言で、じわじわと目元が熱くなった。目の前がぼやけてくる。それはつまり、私にも望みはないって事だ。


「ぐす・・・」
「お、おい、なんでそこでお前が泣くんだよ」


急に泣き出した私に驚いた牧さんが宥めるように頭を撫でてくれる。
今はそんな優しさもつらい。


「わ、わかってくださいよ!わかるでしょう!この場面で泣くなんて、理由は一つでしょう!」
「あー・・・そうか。まあ、なんだ」
「うう・・・」


先輩にこんな態度は失礼なのに、だんだんとヤケになってきて。このまま先輩が卒業してしまう前に、いっそ伝えてしまおう。


「とりあえず泣き止め」
「はぐらかさないで下さいよう」
「待て。待ってくれ」


先輩の慌てた声が聞こえるけど、もうそんなことも気にならなかった。


「好きなんです、牧さんのこと」


俯いたまま、顔を上げる事ができない。先輩の顔をみるのが、怖い。

暫くの沈黙の後、先輩が「はあ、」と深く息をしたのが分かった。


「・・・やっぱり迷惑ですよね」
「そうじゃない」
「マネージャーが選手を好きになるのは、ダメですか。困りますか」
「その・・・なんだ」


随分と歯切りの悪い先輩は、とても珍しかった。ああ困らせてるな、と思って、これ以上無茶苦茶を言って先輩を煩わせることは気が引けた。気持ちを伝えて、どこかスッキリとした気持ちになりつつあるからかもしれない。


「いいんです。期待とか・・・してないし。勢いあまっちゃっただけなんです。だから・・・む?」


顔を上げてすぐ、大きな体で抱きすくめられた。耳元で「ちょっと静かにしろ」と聞こえて、その距離と体温に頭が真っ白になった。すぐ側の心臓の音が、妙に早く鼓動してるのが分かる。


「あああの、先輩?」
「よく分かったよ・・・その、お前が俺のことをかなり好いてくれてること」


伝わって良かった。言って良かった。でも、この状況だと私勘違いしてしまいそう。


「そうです。そのとおりです」
「ストレートすぎて、照れる」
「照れてくれてるんですか。私の告白で」
「ああ。不本意だがな」
「不本意!」


心なしかさっきまで早かった鼓動が、もう少し早くなった気がした。私の顔はきっと真っ赤になってる。


「こんな予定じゃなかった」
「・・・?」
「柄にもなく体裁やらを気にしてたんだ。キャプテンがマネージャーに手を出すのは、あまりにも、だろ?卒業してから言おうとだな・・・」
「あ、の・・・えっと」


私が口ごもると、両肩を掴まれてゆっくり上を向かされた。すぐ近くに、牧さんの顔があって、力強い視線で私を見ている。目を逸らすことなんて出来なかった。


「つまり、俺も好いてるんだ。名字のこと・・・」
「うそ、」
「嘘じゃないぞ。お前が裏で必死に俺たちを支えてくれてた事を、ずっと見ていた。その懸命さに惚れたんだ」


思わず牧さんの首に縋りついた。嬉しすぎて、引っこんでた涙がじわりと目尻から溢れてくる。


「うう、牧さん、」
「ん?」
「私・・・牧さんのそばにいてもいい、んですか」
「ああ。俺はそのつもりだ」


ぎゅっと抱きつくと、牧さんはそれよりももっと強く抱きしめてくれて、ちょっと苦しいくらい。


「あの、牧さん、」
「なんだ?」


つい勢い余って、かっこ悪い告白になってしまったけれど。思いが通じた事が嬉しい。

ここが住宅地の真ん中だって事もすっかり忘れて、それからしばらくはずっとくっ付いたままだった。家に帰ったらきっとお母さんに遅いって怒られるんだろうけど、もうちょっと、このままでいたかった。


「大好きです」
「・・・ありがとう。俺もだ」




「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -