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溶けるのだって構わない


「こうしてみんなに会えたのも結婚式以来、かな」


私と健司の結婚2年目のお祝いにと、バスケ部のみんなが集まってくれた。

人の結婚記念にそこまでしてくれる友達なんてこの先このメンバーだけだろうなと、部活に捧げた高校の日々を懐かしむ。男子バスケ部のマネージャーをやって良かった……そんなことを思いながら、私と同じように心底嬉しそうな笑みを浮かべている健司を盗み見た。

永野くんの肩をバシバシと叩いて、二人してなにやら盛り上がっている。かと思えば顔をつき合わせて、何かを企んでいるみたいに笑った。高校を卒業して何年も経ち、みんな大人と呼べる年齢になった筈だけど、健司のこういう表情を見るとまだまだ子供みたいな部分が残ってるんだなぁ、と私までつられて笑った。


「……そういう名字も、子供っぽいところが残ってるんじゃないか?」


ビールグラスを傾けていた私に、隣にいた花形がそう言った。

結婚して「藤真」の姓になったけれど、みんなからはずっと「名字」と呼ばれていた。私もそれがしっくりするし、そのままの呼び方でいいよと会話したのは、結婚式の時だっただろうか。

「え、ほんと?どのへんが」
「そうだな、例えば、今もピーマンが食べられないとことか」
「!うぐ、……バレてたか」


指摘されて、む、と口を尖らせた私に、今度は反対側から笑い声が聞こえた。


「なによ、長谷川まで」
「いや……名字は相変わらずだと思って」
「子供っぽいって?」
「うん、まあ。けど、それがお前の長所だと思う」
「俺もそう思うよ」
「もうっ!二人して……」


標準よりはるかに大きな二人に挟まれて、なんだか肩身の狭い思いをした。そういや高校の時も、よく二人にからかわれていた。お互いそれなりに成長したと思っていたけれど、やっぱり中身まではそうそう変わるものでもないのかもしれない。



しばらくして解散の流れになると、珍しく酔ってフラついていた健司を見兼ねて、私はタクシーを止めた。一緒に乗り込む私たちをメンバーがそれぞれ囃し立てるので、高校の時の記憶がまた頭の中に浮かんだ。紆余曲折を経て付き合い始めた私たちを、彼らは今と同じような笑みでいつも見守ってくれていた。


「じゃあな、気をつけて帰れよ」
「旦那をしっかり連れて帰るんだぞ」
「仲良くなー」
「頼むぞ、奥さん」


そんな軽口をたたきながら、大きな男たちに見送られ、またねと手を振る。タクシーに乗るなり寝息を立ててしまった健司にかわり今日のお礼を伝えて、ついでに「みんなも早く私みたいな良妻捕まえなさいよ?」と窓越しに茶化した。

車が走り出してすぐ、何かスポーツしてる方達ですか?と尋ねてきたタクシーの運転手さんに、「バスケ部の友人なんです」と微笑み返す。どうりで大きい訳だと納得する声を聞いて、隣で眠る健司へ視線を向けた。

元々の色白に、少し赤みがかった頬。一見女性のようにも見える中性的な顔立ちは昔からあまり変わらず。誰もが憧れる存在の彼が私を選んでくれたことに、今更ながらふつふつと優越感が湧いてくる。

素敵な旦那さんと、素敵な仲間たち。彼らとの繋がりはあの頃から少しも褪せることはなくて。今この瞬間が本当に幸せで、恵まれたものなのだと再確認した。


「……これからもよろしくね」


放り出されていた健司の左手に自分の右手を絡ませると、タクシーの心地よい揺れの中で寝ていたはずの彼の手が、わずかに力を込めて握り返してきたような気がした。


溶けるのだって構わない 2


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