性格がゆがんだ場合の神
昔からそうだったけど、私から見える彼と周りから見える彼には決定的に違いがあった。
例えば彼のクラスメイトに聞けば、大体は『優しくて頼りになる。頭もいい』そんな感じのことを答える。
例えば彼が所属しているバスケ部のチームメイトに聞けば、『努力家で信頼できる。海南のスタメンになるだけはある』とでも答えると思う。
共通してるのは彼……神 宗一郎について、周りからはひとつも悪い所が出てこないということだった。これはどう考えてもおかしい。だって、彼は幼馴染である私にはいつだって意地悪なのだ。
「で、名前?」
「・・・はい?」
「俺のどんなとこが悪いんだろうね」
一見柔らかく微笑んでいるように見えても私には分かる。これ、完全に怒ってる。
こんなことならさっさと帰宅しとけば良かった。まさか今日バスケ部の練習がオフだったなんて。何が嬉しくてこの男と並んで帰らなくちゃいけないのよ。
「名前には特に優しくしてるつもりなんだけどな」
「よく言うよ」
「残念だな・・・伝わってないなんて」
そう言いながら私の頬をつねってるこの手は何だ。私が彼の手を払って距離を取ると、相変わらずニコニコしながら後をついてきた。と言っても、帰り道が同じだから仕方ないのだけれど。しかも、足の長さが違いすぎて直ぐに追いつかれてしまう。
彼が言うように、確かに人前では私に対しても気遣ったりだとか、優しくしたりだとかはしてると思う。でも2人の時には小学生みたいに髪を引っ張ったり足を引っ掛けたり、今みたいに頬をつねったり。そんなしょうもない事をして私で遊ぶのだ。もう高校生だというのに私からすればたまったものじゃない。他にも、告白してきた女の子が可愛くなかっただの、クラスの人達はバカばっかりだの、笑顔でとんでもない事をのたまうのだ。もういっそ宗一郎の事を好きだという女の子達に、こいつの本性をバラして広めたいくらいだ(後が怖くて出来ないけど)。それさえなければ本当に素敵な幼馴染なのに。本当、残念である。
「なに溜め息なんてついてるの?」
「べつに・・・ただ、宗一郎はもう少し牧さんとか高砂さんを見習いなよ」
「先輩たちを?」
急に立ち止まった彼に気づきながらも、そのままずんずん進んでいく。
「もう少し大人の振る舞いをしたらってこと」
「ははっ。そんなこと」
「?」
「名前に言われるまでもないけどね。その点については十分すぎるくらい出来てると思うよ?分かってるよね」
「・・・」
実際、周囲の人間たちは宗一郎について1ミリの疑いもないのだから、彼の言っていることは間違っていなかった。
「じゃあ何で私にだけそんな俺様なの?意地悪だし」
「愛情の裏返しだろ」
「はあ?」
「ほら言うじゃない。好きな子ほどいじめたくなるってやつ」
眩しいくらいに爽やかな笑顔でそう言われて、彼の事を好きな女の子達を卒倒させるくらいの破壊力があるんだろうけど。
「こんなに面倒な愛は、要らないです」
生憎、幼馴染の特権としてその笑顔には十二分に耐性があり、むしろ私には胡散臭く思えた。
「じゃあね」
そしてようやく辿り着いた我が家に素早く身を滑り込ませ、やっと安堵の息を吐いたのだった。
翌日、昨日の仕返しとばかりに、わざわざ毎時間私の教室まで来てベタベタしてくる宗一郎(自分がモテていることをはっきりと自覚している)のせいで、私は女の子達から嫌な視線を集め、居心地が悪くなったりしなかったり。
(みんな気づいてよ、宗一郎のこの悪どい笑顔と笑ってない目に)