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よそ見


なんとも照れくさいことに、高校二年になった私には彼氏というものが出来た。まだまだ自分には早いんじゃないかとか色々考えることは多いけど、その彼氏は毎日部活で忙しくしていたからこれといって今までとの日常の違いとかは感じなかった。

夏休みになって、海に行こうと言い出したのは彰くんからだった。私が泳ぐのは得意じゃないと言うと、じゃあ釣りでもしようって。
きっと数少ない休みの日だろうに、気を使わせて申し訳ないなと思った。でも、私のことを想って会おうと言ってくれるのが素直に嬉しくて、朝から早起きしてたくさんお弁当を用意した。もしかしたら食べきれない量かもしれないけど、こんなに張り切ってしまうほど、私も彼に会いたかったのだと気が付き口元を緩ませた。ただ、張り切りすぎて彰くんが引いてしまわないかが少しだけ心配だった。


約束していた場所に行くと、道路脇の防波堤にもたれて目を閉じている彰くんがいた。その彰くんよりも長い釣竿が2本、すぐ隣に立て掛けてある。


「よ、久しぶり……だな」
「そうだね」
「持ってるの、お弁当?」
「うん。作ってきちゃった」
「……いいね」

釣り日和とでもいうのか、空は快晴で程よく風が吹いていた。これなら暑さに参ることもないな、と少しホッとする。少し歩くと彰くんが「ここ、俺のお気に入りの場所」と言って防波堤の中頃に荷物を降ろした。私たちの他には、少し離れたところに親子連れが一組居るだけだった。

さっそく簡単に釣り方を教えてもらって、針を垂らすこと数十分。


「……まあ釣りなんて、運みたいなとこあるし」


彰くんは既に何匹か釣っているのに、私の釣竿はピクリともしなくて。励まそうとしてくれる彼に小さく笑い返す。こうなったら絶対意地でも釣ってやるんだから!と気合を入れ直し、もう一度釣り糸を垂らした。






結局なにも釣れなかった私の頭をぽんと撫でてくれた彰くんは、楽しそうにクスクス笑っていた。そろそろお腹も空いてきたねなんて話しながら、適当な階段で腰を下ろす。

海水浴場から離れたところにある静かなそこには、あまり人影が無かった。もしかしたら地元の人しか知らない場所だったりするのかもしれない。


「名前ちゃん料理上手だよな。ほんと、全部美味かった」
「あ……ありがとう」
「おー照れてる。褒められるの苦手なんだ?」
「……ばか」


怒んないでよ、と反省の色なんて一ミリも見せずに微笑む。すっかり空になったお弁当箱をまとめながら、じろ、と彰くんを見返した。
私だって別に怒ってるわけじゃないけど、数少ないデートにドキドキしているのが自分だけのように感じて、ちょっと悔しい。彰くんはどんな時でも余裕そうだから。



「……膝枕して欲しいなー」


ほら、こうやって私が困ることも平気で言ってくる。
膝枕なんて恥ずかしいこと、本当ならしたくない。それでも断れないのは惚れた弱みというやつで、とにかく、私は高鳴る心音が彰くんに聞こえませんようにと願いながら、彼の頭を膝に乗せた。


しばらく波の音や時折近くを通る車の音に耳を寄せていると、少し離れたところに知ってる人を見つけた。といっても私は直接関わりは無いけど……あれは確か、彰くんの友達だった筈だ。他にも数人いるように見える。


「あれ、バスケ部の人だよね」
「ん……?」


気持ちよさそうに目を閉じていた彰くんが、ゆっくりと起き上がって私の指差す方を見つめた。その姿に目を止めたかと思えばすぐに逸らして、何でもないようにまた私の膝に寝転ぶ。


「越野くん……だと思ったんだけど、違った?」
「いーや合ってるよ」
「知らんぷりでいいの?」
「うん……せっかく二人でいるのに邪魔されたくないし」


仰向けに寝たまま、真っ直ぐに見上げてくる彰くん。あまりにも優しい眼差しが私の頬を真っ赤に染めた。その恥ずかしさに耐えきれなくて、誤魔化すように顔を背けた。

さっきまで越野くんたちがいた所にはもう誰もいなくて、私たちには気付かなかったのかと胸を撫で下ろした。こんな密着した姿を見られたら、それこそ顔から火が出るほど恥ずかしい。


「ねえ、名前ちゃん」


周囲を眺めていた私は突然伸びてきた手に両頬をつかまれ、驚きで目を丸くした。


「……あんまりよそ見しないで」


さっきまでとは一変して、今度は困ったように眉を下げている彰くん。私が何かを言う前にグッと引き寄せられ、触れるだけのキスをされた。


「いつも……彰くんばっかり見てるのに」
「だといいけど」


折り曲げていた背を元に戻して、顔を手で覆う。ドキドキしすぎてもう限界だと心の中で白旗をあげた。
まだ私の膝に頭を預けたままだった彰くんは、私の様子を見て愉快そうに笑ってから、ようやく体を起こした。


「もう膝枕なんて、一生しない」
「……してくれなくてもいいからさ、一生俺だけ見ててよ」


そんな爽やかな笑顔で何てこと言うんだと、私は言葉を詰まらせた。


「あ、でもやっぱり、膝枕はして欲しいけどね」


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