SHORT | ナノ
彼女の言う通り


「……チュース」
「あ、野間くんっ!また来たの?!」
「おう」


ここ数日、毎朝喧嘩しちゃあ昼登校ってのを繰り返していた。昼休みの間に学校に来て、午後の授業だけ受ける。その前に、俺は必ず保健室に寄っていた。そこに行けば……コイツがいるからだ。


「あのさあ、毎日どこでこんな傷作ってくるの?」
「他校のやっかいな連中が絡んできてんだよ」
「……桜木軍団って、やっぱり喧嘩売られちゃうんだね」
「そゆこと……イ、イテッ」
「ちょっと我慢して」


口では色々言っても、名字 名前はきっちりと傷の手当てをしてくれる。ここの保健医は年寄りのバァさんで、軽い手当てぐらいは保健委員のコイツがやるらしい。ちなみにそのバァさんは、いつも奥の部屋に引っ込んでる。
委員の当番なんて面倒なことをよくやるな、と言ったら「野間くんは委員会に向いてないもんね」と返されて俺は頷くしかなかった。

今まで場所も知らなかったこの保健室に初めて訪れたのは、ほんの数日前のことだった。その日はたまたま殴られた場所が悪くて、どうにも止まらない血をなんとかしてもらおうと足を運んだんだ。そしたら今週が当番だという名字に出会った。

俺の怪我を心配はしても、不良だからって恐がったりしない彼女の気さくな性格が俺はすぐに気に入った。それに、晴子ちゃんほどじゃないけど、名字は可愛かった。花道みたいに惚れっぽくは無い俺だが、どうにも名字のことを考える時間が日に日に多くなっていた。


「来週はもう手当て出来ないからね」
「……は?」
「今日で私は当番終わりだからさ」
「そーなのか……」
「あ、でも次の当番の子はいるよ」


もうここに来ても名字に会えない。そのことを知った途端、この保健室がスゲーつまんねー場所に思えて来た。次の当番がいようと、そいつに手当てをしてもらうつもりは無かった。


「じゃあ……もうここには来ねぇな」
「それってどういう意味?」


ボソ、と呟いた俺の言葉に名字が首を傾げた。


「名字に手当てしてもらえねぇならここにもくる必要ねぇし……」
「……もしかして、その怪我わざとだったの」
「いやまあ、違うけどよ。察してくれよ」


じゃあドMだ、なんて笑う名字から顔をそらす。なんだその笑顔。反則だ。
それよりも、さらりと言った俺の気持ちは通じたのか。


「馬鹿だねえ?」
「悪かったな」


他に誰もいない保健室で、しかもかなり近い距離で、向かい合って座っている俺たち。けらけら笑っていた彼女は、ふと真顔になって俺を見上げた。柄にもなくドキ、と心臓が高鳴る。


「……私はさ、保健室以外で野間くんと会いたいよ」
「お、おう」
「もう喧嘩やめてくれる?」
「……なるべく」
「えー?」
「男にはやらなきゃなんねぇ時があるんだよ」


「ふーん?」とイマイチ納得出来ないって顔の名字。俺だって、こればっかりは明言できねーよ。俺が桜木軍団にいる以上、これからも喧嘩は売られるだろうし。あいつらと連むのをやめる気はねえし。


「でも、なるべく、しない……ようにする」
「うん。ねえ、それでさ……」
「あ?」
「私を彼女にしてくれるの?」


手当てしたばかりの俺の額に手を伸ばして、そろりと撫でた。痛くなかったハズの怪我がずきずきと熱を持って、まるで名字の言葉に反応しているようだ。俺が何か言うのを黙って待つ名字。

返事なんか、とっくに決まってる。


「……まあ、どうしてもって言うなら、いいぜ?」
「なによ、そっちの方が惚れてるくせに」


花道には悪いが、くしゃりと笑った彼女は、晴子ちゃんよりも何倍も可愛いと思った。まじで、俺にはもったいないくらい。


「……そうだな」


誰がどう見たって、俺の方が名字に惚れてる。まったく名字の言う通り、だ。



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