SHORT | ナノ
おめでとう


異性の幼馴染、私にとってそれにあたる人物はひとりしかいなくて。無愛想でマイペースでバスケ馬鹿の大きなその男の子とは、かれこれもう15年の付き合いになる。


「あけましておめでとうございます〜」
「あら名前ちゃん、あけましておめでとう」
「おばさん、今年もよろしくお願いしますね!」
「ふふ、こちらこそ」


1月1日。玄関先で、おめでたい新年のご挨拶。家族での初詣の帰り、お昼過ぎなら寝坊助の彼も起きてる頃だろうと思ってお隣のお宅に顔を出すと、出迎えてくれたのは彼のお母さんだった。


「楓ったらね、せっかく朝起こしたのにお節を食べるだけ食べてまた寝ちゃったのよ」
「え!……まだ寝てるの?」
「この春から高校生だっていうのにねえ」


困った息子だわぁ、と眉を下げるおばさんに私は小さく笑った。いくつ年をとっても変わらない幼馴染の様子に呆れるやらホッとするやら。でも流石に元日のお昼過ぎまでというのは寝過ぎだと思い、起こしに行くことにした。

快く家にあげてもらい、勝手知ったるなんとやら。居間にいたおじさんにも新年の挨拶をしてから、階段を上がって楓の部屋に向かう。


「すぴー…………」
「ほんとに寝てるし」


気持ち良さそうに布団にくるまる幼馴染を見て、大きなため息をひとつ。いつの間にやらベッドからはみ出るほどに伸びた彼の足は、私たちがともに成長してきたという証にも思えた。


「……いつまで寝るつもり、だ!」


乱暴に布団を引っぺがすと、枕を抱えてさらに丸まってしまった楓。もうお昼だと伝えてみても「それがどうした」と言わんばかりに無言のまま背を向けられていて、さてどうしたものかと顎に手を添えた。


(……こりゃ、ダメね)


思ったよりもサラサラな楓の髪をひと撫ですると、不思議と口元が緩む。もはや起こす事を諦めた私は、背を向けて自分の家に帰ることにした。……のだけど。


「楓さん、離してくれない?」
「……なんで名前がいんの」
「なんでって、新年のご挨拶しに来たんだけど」
「ふーん」


まだ少し寝ぼけているのか、私の手を掴んだまま離そうとしない。このままじゃ埒があかないと思った私は、ベッドの端にぽすりと腰を掛けた。


「さっき初詣に行ってきたの」
「混んでたろ」
「毎年そうだよ」
「……よく行く」
「楓もたまには行けばいいのに。神様にお願いしにさ」
「別に……頼みたいこと無いし」


ここで楓が大きな欠伸を一つ。
ようやく手を離されると、私はポケットの中から楓にあるものを渡した。


「そんな楓に、今年もこれをね」
「……また御守りか」
「その通り!健康祈願の御守りです」
「……サンキュ」
「春から高校生だもん。バスケのレベルも上がるだろうし……怪我しないようにね」
「おう」


むくりと起き上がると、受け取った御守りを部活の鞄にくくり付けた楓。私はそれを満足気に眺めてから、「……さてと」と呟いてベットから腰を上げる。


「帰んの?」
「うん。またね」


今度こそ楓の部屋から出ようとして、今日来た一番の目的を思い出した。


「あ、忘れてた」


まだ何かあったのかと首をかしげる楓。


「誕生日おめでとう!」
「……サンキュ」


今年もよろしくね。私がそう言うと大きな幼馴染はコクリと頷き、小さく笑った。


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