SHORT | ナノ
その訳を聞いてあげます


「今日は……岸本に付き合え言われとるから、先帰っといてくれ」


放課後、そう言われて何も疑うことなく返事をした私は、クリスマス仕様に彩られた華やかなショッピングセンターで女の子と歩く彼の姿に、ただただ唖然とするしかなかった。


「…………誰なんよ、その子」


南と付き合いだしたのはちょうど1年前の今頃、クリスマスの次の日だった。なんだかおかしなタイミングにお互い笑いあって、来年は一緒にクリスマスを過ごせたらいいねって言ったりして。

今日までそれなりにうまく付き合ってたと思う。南と私の性格じゃあ人前でベタベタしたり、愛を囁き合ったりなんてことは到底しないけれど。それでも、確かに絆みたいなものがあったし、私が彼を想うのと同じくらい想われていると信じてたのに。


「昨日の放課後?ああ、南とおったで。悪いなぁ……俺の買いもんに付き合わせてもて」
「せ、せやんな……いいのん買えた?」
「バッチリや」
「……南が買い物の役に立つんやなぁ」
「……お、おう。ほんま助かったわ!」


ナハハハハ、といつもはしない笑い方をする岸本くんを疑いの目で見つめる。廊下の片隅で二人でいる私たちを、通りすがりの生徒たちがチラチラと気にしていた。見世物じゃないんだからとため息を吐けば目の前の岸本がビク、と肩を竦めていた。





「名前、クリスマス……家くるやろ?」


高校生がクリスマスを一緒に過ごすといっても昼間にデートしてプレゼントを交換したり、せいぜい夜までどちらかの家でゆっくりするくらいだ。中には大人な時間を共有する人たちもいるかもしれないけどそれはきっと一部で。私と南に限っては、まだまだ可愛いお付き合いをしていた。


「……いく」
「……なんや乗り気ちゃうんか」
「そんなことない、けど」


こうして家に呼んで貰っても、素直に喜べなかった。先日見た南と女の子の後ろ姿が目に焼き付いて頭から離れない。いっそ思い切って聞いてしまおうかとも考えたけど、もし本当にその子のことが好きで、二股をかけてるなんて言われたら私は立ち直る自信がない。

隣にいるのが当たり前みたいに思ってたけどいつの間にかこんなに大事な存在だったなんて、こんなキッカケで気付きたくはなかった。


「ほんで、何悩んどるん」
「え?」
「……最近ずっと眉間が寄っとるやろ。俺なんかしたんか」


クリスマスの日、特別何をするわけでもないけど南の部屋で二人でゆっくり過ごした。夜には買ってきたケーキを食べて、あまり遅くならないうちに私の家まで送ってもらっていた。


「……」
「……俺とおるの嫌になった?」


もう少しで私の家という所で、ピタリと立ち止まった南。パーカの前ポケットに両手をつっこんで、口元はマフラーに埋もれている。それでも、彼の声はハッキリと聞こえていた。


「今日も……上の空に見えた。言いたいことがあるんやったら黙っとらんと言ってくれ、名前」


南がこんなに話すのも珍しいな、と場違いなことを考える。普段はもっと寡黙な人だから。そういえば、今日は一日ずっとこんな感じだった気がする。

しばらく沈黙を続けていた私だったけど、いい加減こんな真冬の空の下でいるのは寒いし、何より私を見下ろして動く気配のない南に怯んでようやく口を開いた。


「私は、南のこと好きやけど……南はどうなんかなって」
「……は?なんやそれ」


怒ってるわけじゃなくて、本当に困った時の声音。こういう事は分かるのに、南の本当の気持ちは靄がかかったように見えない。


「岸本くんに付き合って買い物行くって言った日、私も偶然あの店おってん」


私の言葉に、南は少しだけ目を見開いて驚いた顔をしていた。


「そしたら南が歩いてんの見つけて……知らん女の子と、一緒におった」
「……見とったんか」
「……岸本くんと約束ってあれ嘘やったんやろ」


じわりと目尻が熱くなって、握りしめていた両手が震えた。私の様子に気付いた南は「泣くな」と言ってぎゅう、と私の肩を抱きしめる。反射的に拒絶しようとした腕ごと南の胸に閉じ込められて、動こうにもピクリともしなかった。こんな時、嫌でも圧倒的な体格の違いを思い知る。


「……嘘とちゃう。ちゃんと岸本もおった」
「で、でも、二人でおったやん」
「たぶん名前が俺らを見たんは岸本がトイレに行っとった時や」
「じゃあ……あの子は……?」
「岸本の彼女。ほんまに、誓ってやましい事なんかないで」


抱きしめられたまま、頭の上から降ってくる南の声に余計涙が溢れてきた。彼のパーカが少しずつ濡れていく。それにも構わず、南は続けた。


「俺が頼んでん。クリスマスに何貰ったら嬉しいか分からんって言ったら……ほんなら見に行くかってな。岸本の彼女も協力してくれて……」


名前のクリスマスプレゼント探してた、と急に耳元で囁かれて驚きで涙がひっこんだ。


「……けど、そのせいで名前が悩んどったんやから……俺が悪かったな」


ひと際冷たい風が私たちの頬をなぞって通りすぎる。でもそんなこと気にならないくらいに彼の腕の中は暖かかった。


「誤解、解けた?」
「うん……ごめん」


ぽんぽんと頭に乗せられる手。そっと顔を上げると、心底安心したように微笑む南がいた。

体が離されると、南はポケットから小さな箱を取り出した。どきりと胸が高鳴る。


「……それとな、俺やって好きやからな。名前が思ってるよりずっと」


そう言って私の手を取るとその上に可愛く包装された箱を置いた。アドバイスは聞いたがちゃんと自分で選んだというその中身は、ハートのトップがついたネックレス。

せっかく止まったと思っていた涙が嬉しさでまた溢れてきて、それを笑いながら拭ってくれた南。そして、唇には優しい温もりが触れた。


「メリークリスマス。また来年も……俺のそばにおって」


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