水色
その日の決勝リーグで俺たち湘北は武里に圧勝し、インターハイに一歩近づくことが出来た。そしてそのまま同じ会場でやる海南と陵南の試合を観るために、全員で観客席に移動する途中だった。
「わっ・・・!」
最後尾を俺と宮城が歩いてると、ちょうど俺たち二人の近くで女子が躓いて、そいつが持ってたクリアファイルから試合のスコアや選手表なんかが落ちて散らばった。そのまま素通りするほど性根が腐ったつもりは無く、俺はすぐに手を伸ばして何枚かを拾った。横で宮城も同じように落ちた紙を集めていた。それをまとめて、躓いた女子に渡すと深々と頭を下げられる。
「あの、ごめんなさい!拾っていただいてありがとうございましたっ」
「へへ。どういたしまして」
俺たちを見上げたそいつはよく見るとさっき対戦したばかりの武里の制服を着ていた。そういえばこんな感じのマネージャーがいたかもしれないと数十分前の試合を思い出す。
俺たちと交互に目を合わせて礼を言うその姿勢はかなり好感が持てたし、もっと言うと見た目もかなり良かった。顔が整っているのはもちろん、肩くらいまである髪はサラサラそうで、色白で小柄な所は純粋に可愛いと思えた。うちのマネージャーとは真逆のタイプだが、はきはきしているところは似ているかもしれない。
「・・・あの?」
俺はどうやら目の前のそいつを見たまま、ぼうっとしてたらしい。何してんだか。
「ああ、悪い・・・気をつけろよ」
「はい!じゃあ、失礼しますね」
そう言って軽く会釈をしてから歩き出したがすぐにそいつは俺たちを振り返って呼び止めた。
「三井さん、宮城さん!」
「「・・・?」」
持っていたファイルを強く抱え直してそいつは「陵南戦、頑張ってくださいね!」と言うと、すぐに俺たちに背を向けて階段を登って行った。最後に見せた笑顔に、正直、俺は見惚れていた。
「可愛いっすね。たしか俺とタメっすよ」
「・・・」
「名字名前ちゃん、だったかな」
(名字・・・か)
「俺らのこと知ってくれてたんすねー」
何でお前がそんなこと知ってんだよとつっこみたい所だったが、名前が知れたので良しとする。あり得ねぇとは思うが、どうやら俺はさっきの一瞬で完全に落ちたらしい。我ながら単純すぎて笑っちまう。
湘北のやつらはとっくに観客席に着いてるだろう。俺たちも観客席に行かないと、そろそろ試合が始まる頃だ。荷物を肩に担ぎ直して、「行くぞ、」と宮城の方を向いた時だった。
「あ、」
パンツ見えた。それが聞こえた瞬間俺は階段をのぼる名字を勢いよく見上げたが、一瞬の後ハッとしてすぐ隣にいた宮城を殴る。
「ってえ!なんで殴るんすかっ」
「何見てんだ馬鹿野郎!」
「三井さんだって見たでしょ!」
「ばっか、俺は見てねーよ!」
つい反射的に見上げちまったけど、見てはない!いまだに頭をさする宮城には悪いが、名字のパンツが他の男に見られるのはなんとなく嫌だった。
「まあ、もう見たもんはしょうがないでしょ。減るもんじゃナシ」
「ふざけんな。二度と見るんじゃねえぞ」
「はあ?意味分かんな・・・あ、もしかして三井さん惚れた?」
「悪いか」
途端にニヤニヤしだした宮城は鬱陶しかったが、気にせず歩きだす。席に着く手前で追いついた宮城に「で、何色だったんだよ」と聞くと「やっぱ気になってたんすね」と冷めた目で見られた。相変わらず生意気なヤツ。
「そりゃお前、気になるだろ」
「アンタ言ってる事とやってる事無茶苦茶だよ」
「いいから教えろって」
「・・・水色」
「なおさらタイプだ」
「俺、もうついていけないっす」