SHORT | ナノ
四月馬鹿


エイプリルフールには嘘をついて良いだなんて、誰が決めたんだろうね。



「花道!聞いて驚けっ」
「む?なんだよ名前…朝っぱらから」
「私、彼氏できたの」
「………」
「あれ?驚かないの?」
「も、もう一度言ってくれ」
「彼氏ができたの!」


「…っ、なっ!なにぃぃい!?」
「うふふ」


春がきた。新しい季節が。四月の始まり、今日は私の好きな男の子の誕生日だったりする。

せっかくなので、出会い頭にひとつ嘘をついてみた。私の強がりの嘘。


「こ、この天才を差し置いてだと…!名前のくせに!」


両手でその真っ赤な頭を抱える花道。

彼は、ちょっと乱暴だけど仲間思いで、不器用だけど優しくって、不良だけど純粋。
今も私の小さな嘘を簡単に信じてこんなに悔しがっている。そういうところが可愛くもあり、好きなところでもある。
そして何より、いざという時には絶対に味方をしてくれるその頼もしさに私は惹かれていた。


でも、花道には好きな子がいるんだよね。

私は中学の時からずうっと彼のことが好きだけど、この気持ちはいつまで経っても伝わる事はなくて。何度言葉にしても、ダメだった。

(そんな私を桜木軍団のみんなは、いつも慰めてくれる)



「あ、晴子ちゃんだ」
「なぬ!!!ハルコさん……!?」


途端にキョロキョロと辺りを見回す花道に私は苦笑した。

(……これも嘘だよ)


「おい名前、ハルコさんどこにもいねーじゃねえか!」
「あれ?おかしいなぁ……見間違いかも」
「ったくよ……」


呆れた顔の花道に「ごめんね」と謝る。晴子ちゃんの事を一途に思う彼の視界に私が映ることは無くって。いつも気を引こうとしてからかったりしても、私は友達からは抜けられない。

(ああ、こんなに心地いい季節なのに、報われないなぁ………)



「名前、彼氏ができたんだって?」
「あ、洋平。花道から聞いたの?」
「ほんとアイツは単純だよな。……嘘なんだろ?」
「もちろん。だって今日はエイプリルフールだもん」


そうだな、と微笑んだ洋平がポンポンと私の頭を撫でた。ハテナを浮かべていると、少ししてから手を離される。


「いいこと教えてやろうか」
「ん?」
「これは、嘘じゃないけど」


さっきよりも楽しそうに口元を歪めた洋平が、とっておきの秘密を知っているみたいに見えた。
すっと私に近づいて耳元で囁いた彼の言葉に、私は少し固まる。そして「嘘でしょ?」と返した。

もう一度「嘘じゃねーよ」と笑った洋平。



「花道が好きなのは名前だぜ。さっきの嘘、信じて落ち込んでた」


みんなが平気で嘘をつくエイプリルフール。何が本当で何が嘘なの。

嘘つきばっかりの今日は、誰も何も信用できないなと考えながら、私は開いたままだった口を固く噤んだ。



「……花道、あのね」


洋平の言ってたことは嘘か真か。確かめる術を持たない私はとりあえず、花道にさっきの嘘のネタばらしをして、そしてまだ伝えてなかった誕生日のお祝いの言葉を言おうと大きく息を吸い込んだ。





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