SHORT | ナノ
とびこえてキス


「まさか大と同じ高校になるなんて、思ってもみなかった」
「俺だって・・・びっくりした」


入学式の日、すれ違った女の子の顔には見覚えがあった。頭をよぎったのは、共に遊んでいた幼い頃の記憶。


「・・・名前?」


俺が口にしたそれはとても小さな声だったけど、しっかりと彼女の耳に届いていて。
数秒、俺の顔を見つめてから「もしかして大?」と大きな目をさらに大きく丸くしていたその子は、間違いなく幼馴染の名字名前だった。



部活を引退して、大学もバスケ推薦が決まっていて。しょっちゅう部活に顔を出しては後輩たちに煙たがられながらも一緒にバスケをして。周りの連中が受験勉強で必死になってるってときに、俺の頭の中はいつもと変わらずバスケバスケバスケ。

・・・そんな俺の思考に最近加わったのが、名前だ。


跳ねっ返りの男勝りだった彼女がどうだろう。今や道ゆく人が必ず振り返るほどの綺麗な人になっていた。卒業が近づくにつれて、そんな彼女に俺は思いを募らせてった。



目の前で参考書と睨めっこしている名前のその真剣な顔を、頬杖をつきながら眺める俺。

(・・・まつげ、長ぇな)


昔、まだ俺たちが小さかった頃、親父さんの転勤で引っ越してった彼女とこうしてまた出会えたのは、運命だと思った。いや、出会った当初はただの偶然くらいにしか思ってなかったかもしれない。でも、高校の入学式の日に彼女に出会って。そのすぐ後に同じクラスだと分かって。その次の年も、そして今も・・・ずっと同じクラスで。

これはもう、運命だとしか思えないだろ。


放課後の教室に二人きり。家じゃ集中出来ないからとひとり居残る名前の向かいの椅子に、半ば強引に座っていた。初めは邪魔だと渋っていた彼女も、今はもう俺の存在を気にしていない様子だった。



「好きかも・・・」


ぽろり、本当に無意識のうちにそう呟いてた。気付いた時にはもう遅くて、一度口からこぼれた言葉は二度と回収する事なんて出来ない。


「ははっ・・・好きかもって何よ。『かも』って」


勉強の手を止めて参考書から顔を上げた名前は、照れるわけでも焦るわけでも無い。ただ少し困ったような呆れたような声色で笑っていた。
自分でもカッコ悪いと思う。好きなら好きと、そのまま言えばいいだけなのに。


「好き、かも、しれないんだって」


本当は心の底から惹かれてるくせに、そんな風には見せたくないと思う自分がいて。曖昧にしておかないと、駄目な気さえしてた。

(・・・何だそれ、自分でもワケ分かんねえ)


「そんなはっきりしない告白に、どう返せばいいの?」


例えば俺と名前が幼馴染なんかじゃなかったら、俺はこんな中途半端な事をしただろうか。いや、違うな。そもそも幼馴染じゃなかったら仲良くなんてなってない。今日みたいに二人きりになんてならない。こんな風に・・・好きになったりしてないハズだ。

きっとこいつに憧れる他の男たちに紛れて高嶺の花として見てたに違いない。

(・・・けど、実際は、どうだ)


俺は、偶然彼女と幼馴染で。偶然同じクラスになって。運命的に、今こうして教室で二人きりなんだ。
今の程良い関係が壊れるのが嫌だからとか、そんなのは関係ないだろ。フラれるのが嫌で曖昧にするなんてどうかしてる。


「ごめん・・・違う」
「何が違うの」


首を傾げる名前が俺を急かすことはない。今度こそちゃんと気持ちを言おう。そう思って、一度深く息を吸ってからゆっくりとそれを吐いた。
靄が晴れるようにすっきりした頭のお陰で、ざわめいていた心も落ち着いた気がする。


「ずっと好きなんだ。名前のこと」


今度はちゃんと、はっきりと。逃げるようなことはしない。


「さっきのは・・・怖かったから」


幼馴染として出会ってしまったから、いまさら好きだとか付き合うとか、そんな事ありえないんじゃないかって。恋人になるのは難しいんじゃないかって。臆病になってた。それでも、名前を思う気持ちが溢れてしまった。

だから、ギリギリのところで曖昧にして逃げた。


顔を真っ赤にして話してるだろう俺を名前はただ静かに眺めてたけど、話が終わると「もう分かったから」と言ってなぜか俯いてしまった。

しばらく何の音も聞こえない空間で、夕日に照らされた俺たちの影もただじっとしている。



「・・・ありがとう」
「え?」

「私も、ずっと好きだった」


・・・子供の頃から。そう答えた彼女に俺の心臓は早鐘のように打っていて。


「なんか、こそばゆい」
「・・・大から言い出したんだから。なんとかしてよ」
「んなこと言ったって・・・」


「じゃあさ、」


照れて俯いたままだった名前がいつの間にか俺を真っ直ぐに捉えていて、俺はそんな彼女のうっすら頬を染めた表情から目が離せなかった。

そしてスッとのびてきた両手が俺の頬を挟んだと思ったら、



「とりあえず・・・キスでもしとく?」


俺が何かを言おうと口を開くよりも早く、近付いた温もりが一片のためらいもなく俺の唇に触れていた。




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