私の勘違い
隣の席に座る木暮くんとは三年間同じクラスで、何かと縁があるのか近くの席になることが多かった。
「木暮君って良くも悪くも普通だよね」
私がふと思ったことを口にすると、それに気がついた彼は、こちらを向いて何度か瞬きをした。
聞きようによっては失礼にもなるそれに「よく言われるよ」と微笑む姿はいつも穏やかで、気遣いのできる優しい男の子だと私は思っていた。
「それが良いとこだよね」
「・・・それは初めて言われたなあ」
「きっとみんな思ってるよ」
私がそう言うと、照れているのか木暮君の頬は薄っすらと赤くなっていた。それがなんだか可愛く見えて、じわじわと心が癒されていくのが分かった。
「それだけじゃないけどね」
「・・・え?」
「目立ちはしないけど、そばにいると落ち着くというか・・・困ってたらさりげなく助けてくれるし。それが自然体というか」
どんどん赤くなる木暮君が面白くて、少し調子に乗る私。もちろん、全部本当に思ってることだけど、その勢いのまま後から考えると恥ずかしいような事まで言っていた気がする。
「・・・嬉しい、けど、褒めすぎだよ」
「そうかな」
「それに、名字は誤解してると思う」
ボソッと言われたそれに、何を?と聞き返すと、その赤い顔のまま私の方を見た。
「俺だって別に、誰にでもいい顔をしてる訳じゃないよ」
「えっ?」
「俺は、名字だから優しくしたいし、助けたいんだ。それに、君にいいように見られたいから・・・他の人にもそう接してるだけかもよ」
言われたことをなかなか飲みこめなくて、私は口を開くことが出来なかった。
ただ、じわじわと自分の顔が熱くなってきて、これじゃさっきの木暮君みたいに赤くなってるに違いない。
ゴクリ、唾が喉を通る音がやけに大きく聞こえた。
(・・・私、すごくドキドキしてる)
「名字、」
木暮君の視線が少し熱っぽく感じられて、逸らすことが出来なかった。
どこか冷静な自分が、目は口ほどに物を言うとはこの事かと、頭の片隅で考える。
私は木暮君の何を見てたんだろう。少なくとも彼は私が思いこんでいた、ただの優しい人なんかじゃなくて。こんなに力強くて熱い目をするんだと気付いた。
『木暮君って良くも悪くも普通だよね』
・・・本当に?
「こんな俺のこと、どう思う?」
その目に、もう逃げられないんだと、言われた気がした。