きみに一直線
「しつこいバカ」
俺の方を見もせずに冷たく一刀両断してきたのは、最近の俺の唯一の悩みと言っても過言ではないコイツ、名字名前だ。性格はけっこう辛辣、見た目は良いけど目つきだけはちょっと悪い。何を隠そう、俺の好きな女だったりする。
今日こそは彼女にイエスを貰おうと俺は張り切っていた。
「バカでいいから試合観に来いよ」
「行かないって」
同じクラスの隣の席になるまでは、話したことも無かった。初めは無愛想であんまり笑わない女だな、くらいにしか思ってなかったんだけど。
「俺の自慢できる事ってバスケしかねーんだって」
「だからなんだっての」
呆れた顔して俺を睨みつける名字だけど、最近ではそれも可愛いなんて思ってしまう。
例えばそう、構いすぎた猫が爪を立てて反撃してくるみたいなそんな感じ。でも、動物好きの俺にその威嚇はまったく効かない。
「観に来てくれたらちょっとは俺の良さが分かるってこと!ただのバカじゃないんだぜ!」
「うるさいバカ」
そう言って俺とは反対の方を向いてしまった。なかなか強情だよな。
・・・猫だったら、そのうちデレてくれるんだけど。
「鬱陶しい。離れて」
とまあこんだけ邪険にされても、ふとした時の名字が微笑んだ顔とかを見ると、やっぱり好きだと思うんだよな。あ、別に俺がマゾだとかそういうんじゃないから。
周りのやつにはどこがいいんだって聞かれることも少なくはないけど、その度に俺は「好きになったもんはしょーがないだろ。どこが、とかじゃねーよ」と答えていた。おかげで、俺が名字の事を好きだっていうのはクラスどころか学年のやつ大体が知ってると思う。
そういや、こないだ神さんには・・・
「ノブって一途なんだね。そういうとこ、俺はいいと思うよ」
なんて言われたけど、もしかしてもう全校生徒が知ってんのか?あの時は急で何の話か分からなかったけど、今思えば俺が名字のことを好きだって知ってたのかもしれないな。
まったく、注目されるってのは辛いもんだぜ。
「なにバカ面してんのよ清田。またバカな事考えてるの」
「ああバカだよ!それにな、考えてんのは常にお前のことだ!」
「・・・恥ずかしいこと言わないで」
急に顔を背けた名字に俺はニヤニヤが止まらない。なんせ、彼女の短い髪から覗く耳が赤かったから。
「言うねえ、清田」
「名字さんすごい真っ赤だよ?」
「こりゃあもう少しで落ちるな」
ヒューヒューとクラス内から口笛が吹かれたり、頑張れよと声をかけられたり、すっかり応援されている俺は当然悪い気はしなかった。
「バカ猿・・・しつこすぎるのよ」
とうとう机に突っ伏して、蚊が鳴くような小さな声でそう言った名字。その姿にいつもの毅然とした様はすっかり見えなくて。
「なあ、試合じゃなくても練習でいいから。観に来ねえ?」
最後に駄目押しでそう言うと「今日だけ、だから」とさっきよりもか細い声が聞こえてきて、俺は心の底からガッツポーズをした。
(あー早く放課後になんねーかな!バスケしてェ!)