SHORT | ナノ
賭けごと


ジャラジャラジャラ・・・


「ああー、眠い」
「俺も」
「私も」
「今何時だよ・・・」


金曜日の放課後、集まるのはいつも通りのメンバー。泣く子も黙る(らしい)桜木軍団エトセトラ、と私。週末の夜中に若い男女が一つの部屋で何をしてるのか。決して如何わしい事ではないが、褒められたことではないのも確かだ。なんせ・・・


「忠、次でオーラス?」
「おう。高宮の親だ」
「げっ もう3時だぜ。かんぺき徹マンじゃねーか」
「なんだよ大楠、用事でもあんのか?」
「いやねーけどよ」
「ああもう、のんちゃんが寝てる」
「名前、そいつ一発殴っとけ」


高校生4人が集まって、どっぷり麻雀なんてしてるんだから。
私はとりあえず隣で寝かけてる高宮の頬をペチッとビンタしておいた。相変わらずタプタプしてハリツヤのあるお顔だこと。


「やった、ロン」
「かーっ!また名前の一人勝ちかよ」
「・・・なんて女だ」
「何やらしても強えよな」
「洋平の次だけどな」
「あんたらが弱すぎなの」


言わせておけば好き勝手に人のこと言って。強いってのは本当のことだけど。正直、麻雀でもパチンコでも勉強でも大抵の事は卒なくこなすのが私だったりする。まあ、運が強いってのが本当のところなんだけど。
それにしても華の女子校生が彼氏も作らずにこんなむさい男たちと徹マンだなんて我ながらどうかと思うけど、最近ではこのゆるーい関係も気に入っちゃってるんだから仕方ない。



「次は何か賭けようぜ」
「え?」


牌を積みながら、突然大楠がそう言った。
ニヤニヤした顔で「その方が面白いだろ。高宮も起きるしな」と笑い、サイコロを振る。
確かに、そういう緊張がないと勝負事は少し面白くなかったりする。他の二人も異論はないようで、1位がなんでもひとつ、最下位にお願い出来ることになった。



「私が勝ったら最下位は好きな人に告白してね」

「「「・・・はっ?」」」


東場のオーラス、1回目の私の親がようやく終わった時。ふと思いついたお願いを口にすると、エトセトラ(本当はこう言うと怒る)は揃って間抜けな顔を見せた。


「面白いでしょ?最近は花道もフラれなくてつまんないし。あ、好きな人いないとかは却下ね」
「絶対負けらんねー」


口々にそりゃないだろ、などと言ってるがこれくらいの事はしてもらわないと。「俺が買ったら一週間昼飯奢らす!」と意気込んでるのは、すっかり目を覚ました様子の高宮だった。
ここまで半分終わって今のところ私が1位。段々と揃っていく目の前の手牌を見ると、このままだと今回も負けそうにない。残念。


「・・・ツモ」
「またかよ!やべえ、名前が断トツなんじゃねーか」
「いや、まだ俺は親残ってるしイケる。忠は無理だな」
「んなことねー!」


南場に入り残すところ親はあと3人、高宮と大楠と私。私が1位で大楠が2位、高宮が3位で最下位が忠だった。これは役満くらいよっぽどいい揃い方をしないと、忠は1位にはなれないと思う。


「大楠と勝負ってところね」
「俺が名前に直撃すりゃ、最下位に落ちるだろ」
「可能性がない事は無いけど」
「そしたら流川親衛隊に入らせるからな」
「それはいい!ナイスだ」


ぶはっ、と吹き出した高宮と大楠は二人揃って大笑い。
なんてとんでもない事を言い出すのか。流川親衛隊だなんて誰が入るか!あんなのに入るくらいなら堂々と流川に告白でもなんでもしてやるわ。と私が言うと、それもアリだと更に笑っていた。


「ツモ」


楽しそうなところ悪いけど、手牌が揃ったのでしょうもない手だったけど上がってやった。
これで、高宮の親が終わって、次は大楠の親の番。


「なんだよもうラス前かよ」
「しかもドラ、東だぜ」
「忠の風じゃん。俺関係ねぇし」
「・・・」


そういえばさっきから忠が静かなのは最下位だからだろうか。負けるとつまらないのは分かるけど、いつもの彼は負けても大抵楽しそうにしてるのに。
右隣の彼を見やると、なぜか私のことを見ていた忠とばっちり目が合う。


「なあ名前・・・」
「ん?」
「おい忠、次引けよ」


大楠に言われて手を動かしながら、忠はまだ何か言いたげにしていた。


「俺最下位だろ?んで名前が一位だろ?」
「そうだね」
「今からまくるからよ・・・」


彼に視線を向けると、ゴクリと唾を飲みこんで意を決したような顔をした忠が、まっすぐに私だけを見ている。
この時、何故かざわりと胸騒ぎがしていた。


「そしたら俺と付き合ってくれ!」


一瞬何を言われてるのか分からなくてフリーズ。でも直ぐに出た声は呆れ混じりの力が抜けたものだった。
私だけじゃなくて大楠も高宮もポカンと口を開けてただこちらの様子を見てた。



「ばっ・・・馬鹿じゃないの、まだ終わってないのに、告白って」
「うるせー。いいのかダメなのかどっちだよ」
「点差知ってる?」
「たりめーだろ」


やけに自信のある顔を見てやっぱり忠は馬鹿だと思った。突然の告白に驚くというよりも、今からまくる、つまり私に勝つと言われたことの方が癇に障った。



「負けるわけないじゃん。いいよ」
「・・・後でやめるとか無しだぞ」
「二言はない」


そう言うと俄然やる気を出した忠と、いきなりの展開に悪ノリしてニヤニヤとこちらを見てくる二人。
恐らくこいつらはもう自分が勝つことより、忠と私の勝負がどう決着つくのかに興味があるといったところだろう。


「・・・その代わり、やっぱり忠が負けたときは、高校3年間パシリだよ」
「おう。何でもいいぜ」


ロン!と、今までの不調ぶりが嘘みたいに、忠が私の捨て牌で上がった。


「高いぜ〜?」
「やるじゃねぇか忠」
「付き合いたくて必死か!ハハッ」


驚いて彼が揃えた牌の列を覗いてみると、さらに驚くほどに良い手だった。倍満、つまり、これで私と彼は一気にほとんどイーブンの点差になった。

どくどくと心臓の鼓動が早くなる。


勝っても負けても次で終わり。最後は私の親だった。大丈夫、と無意識に自分に言い聞かせる。


(・・・っ)


表情にこそださないけど、引く牌はどれも揃ってはくれなくて。到底上がれそうもなかった。



「悪いな名前、俺の勝ちだ」
「・・・」


けっきょく、最後も忠が私から高得点を取って順位は逆転された。二言はないと言ってしまった以上、やっぱりナシなんて言えなくて。

私はそんなこんなで忠と付き合うことになった。






「・・・はあ?麻雀で賭けて負けたから付き合う!?」
「うん」
「マジかよ・・・」
「マジですよ」


翌週、同じクラスの花道と洋平に忠と付き合う事を話すと、これでもかと目を見開かれた。
「お前、それでいいのか?」


驚く洋平に負けたものはしょうがないでしょ、と言って私は自分の席に戻った。
それに、忠の良さを知らないワケじゃないから、そんなに嫌じゃないのが本音だった。


(あれでなかなか男気があるヤツだし・・・)



「忠はやっと言えたんだな。長い片思いの終わりだ」
「・・・俺も行くべきだったかな」
「洋平?」
「冗談だよ、冗談」


小さく笑う洋平もその彼をじっと見る花道の事も、近くにいなかった私は気付くことはなかった。


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