SHORT | ナノ
私の春は、


「彩子〜!」


ちらりと見えたその後ろ姿の方に向かう。廊下にいた親友に遠慮もなしに抱きつけば、見た目よりも柔らかくてちゃんと出るとこは出てたのが分かった。まったく憎い体である。


「あら名前じゃない。やっとマネージャーする気になった?」
「やんないって!」


実は以前から男子バスケ部のマネージャーに誘われていたりする。まあ、私が役に立てるとは思えないし断っているんだけど。


「そんなことより、今日もリョータ君を見にいくねっ!」
「はいはい」
「好きだ〜」


実は私は、バスケ部の宮城リョータ君に恋をしていた。放課後には彼の勇姿を見るためにバスケ部の見学に行くくらいで、その時にマネージャーのお誘いがあったりなかったりするんだけど。

そんな私を呆れた様子で見ている彩子。


「相変わらずねえ」
「だから彩子、早くリョータ君と付き合ってよ」
「だから、なんでそうなるのよ」
「じゃないと諦めがつかないもん」
「諦めなきゃいいじゃない」
「だってリョータくんは彩子一筋じゃん」

「んー・・・またそれ?」


顎に指を添えてなぜか唸ってる彩子の横で、私は小さくため息をついた。
そう、誰が見たって誰に聞いたって、100人いたら100人がリョータ君の好きな人は彩子だって答えると思う。私に望みはない訳だけど、リョータ君のそういう一途なところも好きなんだから、仕方がないと思う。



「あ!彩ちゃんっ」
「リョータ、いいところに」
「・・・」


その時、たまたま通りかかったリョータ君が私たちのすぐ近くまで来た。
好きな人の急な登場に私の鼓動は一瞬で高鳴り、手足は固まる。ああ、笑うリョータ君がかっこいい、と動きの鈍くなった頭で考えていた。


「名前があんたに話あるって」
「・・・名前ちゃんが、俺に?」


傍らでぼうっと二人を眺めていたら、突然彩子がそんな事を言い出した。


「 えっ!無いよ話なんて!」


私はひどく慌てて、背中には冷や汗が伝っていた。一体彩子は何を考えているんだと彼女の方を軽く睨むと、それは鮮やかに無視された。

(う・・・どういうつもり?)


「あるのよ。ほら、私は先に部活行くから。後でねリョータ」
「うん」
「あ、それと・・・」


彩子は何やらリョータ君に小声で言った後、次に私の耳元で「とにかく当たってみなさい!うまくいくかもしれないわよ」と囁くと、パチリとウィンクをしてさっさと体育館の方へ歩いて行った。その姿でさえ周りの男の子の視線を集めているんだから、羨ましいかぎりだと大きく溜息をついた。


(冗談でしょ・・・?)



「どうかした?名前ちゃん」


頭にハテナを浮かべながら私を見るリョータ君のピアスがキラリと光った気がした。
急に二人きりにされて当然私が上手く話せるわけもなくて、視線があちこちに彷徨う。


「あの・・・その、えっと」
「ははっ、なんで緊張してんの?」
「そ、それは・・・」


とうとう俯いた私は、ただじっと自分の足もとを見て彼のことを考えていた。
緊張しちゃうのはリョータ君が好きだからです。ドキドキが止まらないんです。でもこんなこと言えない!彩子のバカ!


たとえリョータ君と顔見知りの友達だとしても、こんな急な状況で世間話なんて私には出来ない。



「まったく彩ちゃんは、強引だね」
「・・・」


私がひたすら混乱していると、彼が小さく笑ってるのが分かった。


「あれね、たぶん俺にチャンスくれてんの」
「・・・チャンス?」
「そう」


まいっちゃうよなー、と言って頬を掻くリョータ君。

(どういうこと・・・なんだろ。彩子がチャンスをくれたのは、私なんじゃ・・・?)


「つまりさ、俺に告白のチャンスをくれたってこと」
「え・・・」
「早く名前ちゃんに気持ち伝えなさい、って怒られたよ」


そう言うと照れた顔をして、明後日の方を向いた彼。
そんな事を言われても信じられない私は、魚みたいに、ただ口をぱくぱくさせているだけだった。


「俺、名前ちゃんのこと好きなんだ」
「う、そ・・・!?」
「嘘じゃないよ」


赤くなった彼の顔を見て、それ以上に自分の顔が赤くなっている自信があった。どくどくと自分の心音が大きくなってるのが分かる。


驚いて固まる私の頭の中には「ホラね、私の言った通りでしょ」とにやにや笑う彩子の顔が浮かんでいた。


「ねえ名前ちゃん・・・返事くれない?」


これでもかというくらいに赤くなった顔を彼に覗きこまれて、私はただただ小さく頷くことしか出来なかった。


私の春が、いま来たみたい。





×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -