SHORT | ナノ
任務完了です


「・・・そういえば、聞いちゃった」
「何をだ?」
「純くんが顔赤くしてたって」


私の後ろの席で料理本を読んでた純くんこと、魚住純を振り返る。

バスケの世界では『ビッグ・ジュン』なんて異名がつくほど大きい身長に、とても高校生には思えない顔。そしてただいま絶賛板前修行中の身。こんな見た目をしてても一応私と同じ17歳で、クラスメイトなんだよね。
・・・見えないけど。


「池上くんが言ってたよ。昨日、純くんが記者の女の人に応援してもらって照れてたって」
「なっ・・・」
「あ、その顔じゃ本当なんだ?」


私がそう言って覗き込むと、純くんは持ってた本で顔を隠した。顔も大きいから隠れきれて無いけどね。ふふ。


「・・・馬鹿、くだらないこと言ってないで前向いとけ、名前」


実は私たちは幼なじみで、なんなら家族ぐるみで仲が良かったりする。彼とは兄妹のような、気の置けない友達のような、そんな仲だった。



「純くんって年上の人が好きだったんだねー」


知らなかったなぁ、なんて言ってにやにやしている私に、本から顔を上げた彼は呆れたとでも言いたげな表情をしていた。


「そういう訳じゃない。それに・・・あの人は相田さんだぞ。お前も知ってるだろ、ほら、彦一のお姉さんだ」
「彦一君・・・一年の子だっけ」
「分かっただろう」


「だいたい、なんで池上はお前にそんなこと教えたんだ」とブツクサ言ってるので、一応池上くんのために弁解しておく。


「だって、私が頼んでるんだもん」
「はあ・・・?」
「純くんに女の子が近づいたら教えてねって」
「な、んで・・・そんなことお前が聞くんだ」
「だって気になるじゃない?幼なじみの恋愛事情」
「・・・」


パチンとウインク付きで答える私は、純くんの驚いた顔をみて内心でしてやったり。でもあんまりからかうと後が怖いのでネタバラシしてあげることにした。


「うそうそ。ホントはね、純くんママに言われてるんだ。『純に変な女の子が近づかないように、名前ちゃんが見張っててね』って」


だから池上くんに頼んだんだよ?と私が態とらしく舌を出して笑うと、予想に反して純くんは黙りになった。私はてっきり、「お袋のやつ!」とか「お前な!」とか、文句のひとつでも出てくると思ってたのに。
私が拍子抜けしていると純くんは持っていた料理本を閉じて鞄にしまっていた。なんで何も言わないんだろう。


「ねえ、何かないの?」


恐る恐る聞いてみてもこちらを見てくれる様子はない。


「何かって?」
「ほら・・・怒るとか?」
「今さら怒っても仕方ないだろう。お前とお袋は昔っからそうだからな」
「・・・ありゃ」


今まで私と純くんママが散々自分をからかってきた事を思い出してるのか、眉間が小さく寄っていた。
そんな難しい顔してるともっと老けて見えるよと、心の中でひっそり呟く。



「・・・おい、名前」
「ん?」
「その・・・心配はいらねえって、お袋に言っておけ」


明後日の方を見ながらそう言う純くんに、今度は私が首を傾げた。


「純くんママに・・・?」
「ずっと前から、心に決めた奴がいるってよ」
「・・・ええっ!?」

「ごく身近にな」


今度は真顔で、私の目を見て言った純くんに私の思考は止まった。それと同時に、心臓が破裂しそうに高鳴り出す。
まるで、告白されてるみたいだと思った。

(というか・・・これはそうなんじゃないかな)


それから何も言わない彼と見つめあって数十秒。体感では何十分くらいに感じた。


「私の知ってる人・・・?」


ワザととぼけてそう聞いてみても、彼は余裕そうに「さあな」と口元を緩めるだけで。焦れったくなった私は一呼吸置いてからこう言った。


「ねえ・・・私が純くんママに花嫁修業してもらってるの、知ってる?」


それを聞いた純くんは偉そうに、そしてどこか満足そうに腕を組んで私を見下ろしていた。


「ああ、知ってる。精々、俺が呆れないくらいには頑張っておけよ」


私はだんだんと熱くなる顔をなんとかしようと、両手で顔を包んで彼に背を向けた。


「・・・そっちこそバスケばっかしてないで早く一人前の板前になってよね」
「当たり前だ」


後ろの席でククク、と笑ってる純くんの気配がしたけど振り返ることは出来なくて。帰ったら純くんママにどうやって報告しようかと、私は悶々と考えていた。


(とりあえず、『女の子チェックはしなくて良くなったみたいです』・・・かな)





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