赤いピアス
クラスの委員長をしてる名字は一年の時も同じクラスで、比較的仲が良かった。三年になった今も、女子の中ではよく話す子だった。
「木暮くん、手伝ってくれてありがとう」
職員室まで運んでくれと先生に頼まれていた資料が重そうだったから、見兼ねて自分から手伝いを申し出た。笑顔で礼を言う彼女は可愛いと、素直にそう思えた。
「……おっと!」
「名字、大丈夫?」
「うん、ちょっと躓いただけ。けど資料はばら撒いちゃったね」
階段に差し掛かったところで彼女がバランスを崩し、持っていた資料が落ちた。自分が持っていた分を一旦置いて、さっと拾うのを手伝う。隣で同じようにしゃがみこんでいる名字が、顔に落ちてくる髪を耳にかけた。その隙間から見えたのは小さな赤い石のピアス。
それは、真面目な彼女にしては珍しいと思えた。
「名字って、ピアス開けてるんだね」
「……実はそうなの。うちの学校ってそういうのちょっと緩いから、開けちゃった」
そっとピアスを触りながら、内緒にしてねと悪戯っ子のように笑う。その表情をみて何故かドキッと胸が高鳴った。普段その長い髪をおろしているのは、実はピアスを隠していたからだと彼女が教えてくれた。
「……なんか意外だな」
「そうかな?まあ……見た目だけは優等生って言われてるからね、私」
「成績だって、優秀じゃないか」
「まさか!木暮くんほどじゃないよ」
そう言うと一度目を伏せて、見上げるように俺の方を向いた。
「それに、木暮くんの方がギャップ、あるよ」
「俺にギャップ?」
「うん。とてもバスケ部には見えないもの。激しいスポーツなんでしょう?」
「まあね。自分でもビックリしてるよ。でも、やってて良かったと思ってる」
職員室に着くと待っていた先生にお礼を言われ、それに軽く頭を下げてまた教室に戻る。名字のピアスは髪でしっかりと隠されていた。
少し歩いて、彼女がまた口を開く。
「この赤いピアスね、バスケ部の色だって言ったら驚く?」
「ええっ?」
その言葉通り、驚いてその場で立ち止まった俺。すぐ横にいた彼女も少し歩いてからこちらを振り返る。バスケ部の色というのはつまり、湘北のユニフォームを指しているということ。
「バスケ部の応援がしたくて、赤にしたんだよ」
「嘘だろ?」
「真面目な優等生だから嘘はつかないの」
まさかそんな事を言うとは思わなくて、これは本当に名字なのかと少し疑う。
「そ、それ……自分で言うの?」
「ふふっ」
意味深長に笑う彼女から目を離せなかった。
「……嘘じゃないけど本当はね。バスケ部みんなじゃなくて、木暮くんの応援、なんだよ」