SHORT | ナノ
コンビニ店員


朝練に向かう途中、必ず寄るコンビニがあった。大体その時間に客は俺だけで、店員もいつも同じ女の子だった。たぶん、同い年くらいの。


カロリーメイトやパンを適当に掴んでレジに持っていく。

「316円のお返しです」


ここまではいつもと変わらない流れだが今日は少し違った。商品を受け取ろうとした時、いつもだったらありがとうございましたと笑顔をくれる店員さん(ネームプレートには名字さんと書いてあった)が、違うことを口にしたのだ。


「あの、朝練、バスケ頑張ってください」
「・・・?」

急な事で驚いた俺は、何も言えなかった。ただ、バスケ部だと知ってたのか、と心の中で思う。

店には小さな音で最近流行りの曲が流れているだけだった。


「あの、インターハイ予選、観に行きます。湘北戦・・・その、応援してます」

もしかしてバスケ関係者だったんだろうかと彼女・・・名字さんを見たが、とても女子のプレーヤーには見えない。兄弟や友達がプレイしてるのか、もしくは誰かのファンだったり・・・。
(藤真、とか)


「どうか・・・されましたか?」
俺が黙ったままだったから不安に思ったようで、眉が下がった困り顔でこちらを見ていた。
こんな風に声をかけられることが無くて、俺もどう返したらいいのか分からなかった。


「いえ、応援どうも・・・」


結局俺の口から出たのはそんなありきたりなもので。あまり社交的ではない自分の性格を少し恨んだ。別に冷たくしたいわけじゃないんだ。

心のどこかで彼女と気まずいままは嫌だと思った俺は、なんとか話を続けようとする。


「藤真が出る場面があるか、分からないけど」


多分、藤真の応援のついでに俺を見つけたんだろうなくらいに思っていた俺がそう言うと、今度は不思議そうな顔をする彼女。


「ふじ、ま?もしかしてキャプテンの方ですか?ごめんなさい、私、長谷川さんしか知らなくて」
「名前・・・」
「あ、翔陽の友達に聞いて・・・」
「そうっすか」


まさか彼女が俺の名前を知ってるとは、いやそれより、俺の応援をしてくれていると思わなくて、一気に顔が熱くなった。表情にこそ出さないけど、こんなに照れたのはいつ以来だろうか。


「あ、ありがとう、っす」

俺が最後にそう言うと、にこりといつもの笑顔をくれた。誰かに応援されれば誰だって悪い気はしない。それは俺も例外じゃなくて。
店を出てから少しにやけるが、慌てて無表情に努めた。


「・・・湘北戦、頑張ろう」

自分がこんなに単純な男だとは思ってもなかった。




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