SHORT | ナノ
質問があります


「花形君、聞いてもいい?」


いちばん隅の席に座る俺と、その隣にいる名字。自習で少しざわつく教室の中で、その声は俺の耳にすんなりと届いた。


「・・・なんだ?」


質問なんて珍しいな、と思った。というのも、学年首席の自分に次いで彼女は常に次席を保っていたから。こう言うのもなんだが、わざわざ俺に聞く様な分からないことなんてあるのだろうか。


「人を好きになるってなんだろう」
「は?」


言われた意味が分からなくて、思わず名字を見返した。
少し目を伏せて「勉強しかしてこなかったから分かんないんだよね」と、そう言う彼女。
決してふざけてる訳でもなく、至ってまじめな様子だった。


「・・・結構恥ずかしいこと言ってるぞ」
「そんな気はしてる。花形君にしか聞けないよ」
「・・・」


なんとも複雑だと思った。
まさか高校三年になって、こんな事を聞かれるなんて考えもしない。それも、自分の好きな異性から。


「花形君は好きな人っているの?」


ドキ、と心臓が強く鳴る。


「・・・いるには、いる」


表面は落ち着いてるように振る舞っても、内心ではとてもじゃないが焦らずにはいられなかった。


「どう思ったりするの?その人のこと」
「・・・近くにいると緊張したり、ふとした時に思い浮かべてたり、あとは・・・」
「あとは?」


自分で言ってて、顔に熱が集まってくるのが分かった。
今すぐ話を逸らしたいところだが、そんな俺の気持ちなんてお構いなしとでも言うように、名字は身を乗り出して続きを促した。


「笑った顔見ると、グッときたり」
「そういうものかぁ」

(・・・なんだこれは。恥ずかしすぎる)


「じゃあ、やっぱり私、好きなんだな」


俺が羞恥にさいなまれていた隣で、名字は誰に言うでもなくポツリと呟いた。俺の耳はしっかりとそれを拾い、何度か瞬きをしながら彼女の方を見た。


「・・・は?」
「テストでね、なかなか勝てないから意識してただけなのかもとか思ってたんですよ」
「・・・」
「でも、そっか。なるほど・・・」


一人で納得して頷いている彼女に、完全に置いてけぼりにされてる気分だった。
ただひとつ分かることは、名字がテストで勝てない相手なんて、そんなにいないだろうという事で。
心当たりがあるとすれば、それは・・・

(まさか、そんな事あるはずが、)


そこまで考えて、名字がそれを遮った。
教えてくれてありがとう、と言って微笑む彼女に俺は、ああ、と返すのがやっとだった。


「役に立てた・・・のか?」
「ばっちりね」


なんとか会話しているが、未だに思考が上手く働かない。


「ね・・・もうひとつ聞いていいかな」
「いい、けど」
「ちなみに花形君の好きな子って誰なの」


ごくりと、自分の喉が唾を飲みこむ音が鳴った。

ここで俺の想い人の名を・・・彼女の名を、言えばいいのか?想いを打ち明ければいいのか?
こんな時ばかり、臆病な自分が顔を出す。

名字はその二つの目で俺をまっすぐに見つめている。吸い込まれてしまうんじゃないかと、頭の片隅でそんな事を思った。


「俺の、好きな人、は」
「・・・誰?」


学年一位の成績を取ったところで、こんな場面では、まるで役に立たない。俺には、簡単に答えられそうにない質問だった。


(・・・俺の好きな人は、君だ)





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