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困るんですけど


(・・・またか)

じぃー・・・

最近、もっぱら後ろの席から感じる視線。たぶんいや絶対に勘違いなんかじゃない筈。
朝も昼も授業中もなんなら今だって、彼から遠慮なく注がれる視線に居心地が悪いったらなかった。

そう・・・後ろの席の、流川楓君からの視線。


「ねえ・・・私、何かしたかな」
「・・・」


とうとう耐えられなくなって後ろを振り返ると、予想通りこちらを見ていた彼とバッチリ目が合った。

少し前までは例え先生に起こされても問答無用で寝続けていたくらいなのに。どうしてこんなに見られなくてはならないのか。到底心当たりなんて無かった。
(なんせ、話したことも無いんだから)



「ずっと見てる、よね?出来ればヤメて欲しい、んだけど」
「・・・悪い」


授業の合間に私が勇気を出して言うと、案外あっさりと謝った流川君。なんだか拍子抜けしてしまった。


「ちなみに・・・何で見てたのか教えてくれる?」
「何でって、」


まさか色恋なんて可愛い理由じゃないでしょう。そんな気持ちで彼の答えを待った。
珍しく流川君が女子と話しているからか、クラスの流川親衛隊の子達がザワザワしている。


「お前はうるさくなくてイイと思った」
「・・・え、」


あれ?まさかの色恋か?
いやいやそんなワケないよね。バスケ以外(とりわけ女子)には興味なさそうな彼だもの。きっと何かの勘違い・・・


「見た目も・・・悪くないと思う」
「いや、えっと」


やっぱりそうなのか!そうなのか?
やめてよ、なんでちょっと頬染めてんのよ、普段とギャップありすぎでしょう。
それに、近くにいる親衛隊の子達もこっちを見て目を丸くしていた。

(・・・聞こえてるよ絶対)


「・・・名字?」
「は、はい!」


周りを気にしてチラチラ見ていると、首をかしげた流川君に呼ばれる。返事をしてから、名前を覚えられていたことに驚いた。


「あんまよく分かんねーケド・・・気になる。名字のこと」


きゃあ!

今度こそ騒ぎだした親衛隊。そりゃそうでしょうよ。私の心も大騒ぎですよ。何言ってんのコイツこんなに人がいるクラスで。さっきから女の子の視線がすごいんだよ射殺されんばかりなんだよ。


「だから、見てた。さっきの答え」
「あ、そう・・・」


ガタリと音がして、流川君が立ち上がった。トイレにでも行くのかそのまま教室を出て行く。

(ちょっと待ってよ、言うだけ言って終わり?)


私にはもれなく親衛隊の女の子全員からの目が向けられていて。彼の告白紛いの発言に遅ればせながら速まった鼓動のせいでそこから一歩も動くことが出来なかった。
気分はもう残りの授業を放棄して早退したいくらいだ。


「困るんですけど・・・」


とりあえず早く席替えしないかなーなんて考えつつ、やっと口から出た一言がそれだった。


(彼はとても、私の手に負えそうにありません)




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