ピー・エヌ | ナノ
和を以て貴しとなす
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「……会員証をご提示ください」
「はい、お願いします」
「……お返しいたします」


ジムに来て受付で簡単な手続きをしている間、受付の子たちから何やら気まずい沈黙と嫌な視線を感じて、あまりいい気持ちでは居られなかった。それはトレーニングを始めてからも変わらずで、離れたところから度々鼻で笑われているような気もした。

ここに通い始めてひと月ほど経つけれど、そういえば他の会員さんも妙によそよそしいと思っていた。共通して言えるのはそのどれもが若い女の人からという事。


「……何なんだろう」


まあ気にするだけ無駄かな、と気持ちを切り替えてランニングマシンに乗った。





「お……名前ちゃん、終わりかい?」


相変わらずゼーハーと肩で息をしながら汗を拭っていると、親しみのある笑顔で私に声をかけて来たおじさん。


「う、上野さん……!いつの間に隣に!」
「いやあ、あまりに真剣だったからね。おじさん声かけるタイミング悩んじゃった」


てへ、と効果音でも聞こえてきそうなくらい茶目っ気たっぷりにウィンクしたおじさんは、このジムで仲良くしてくれる数少ない人のうちのひとりだ。
年齢やら色々不詳だけどこういう可愛いところがあるし、何より気さくなその性格が私はとても親しみやすかった。


「どうも!名前さんも上野さんも精が出ますねっ」
「やあ、サエちゃん。いつも元気で眩しいね〜」
「上野さんこそ、今日も変わらずダンディですよ」
「本当かい?おじさん、こんな可愛い子達に仲良くしてもらって嬉しいな〜」


揃ってウフフと笑い合う二人を私も口元を緩めて眺める。上野さんと話す元気な女の子、サエちゃんこと佐伯さんは、仙道くんと同じこのジムのスタッフで私の友達だ。最初はよく機械の説明なんかをしてもらっていたんだけど、年が近いこともあって仲良くなったという訳だ。

サエちゃんは私の二つ年下で今、大学四年生。就活中らしいけど本当にいつも元気ハツラツで、きっと就職先なんてすぐ決まると思う。
そういえば彼女は体育会系で、学校ではテニス部に入ってるとか。そのサバサバした性格のおかげで、いい意味で私にも遠慮なく話しかけてくれるので、私はすぐに彼女の事が好きになった。……もちろん、友達として。


「サエちゃん、私あの機械使ってみたいな」
「お、いいですね〜アレは二の腕に効きますから!私が分かりやすく教えましょう!」
「よろしくお願いしまーす」

「ハハハ。おじさんはこっちで走ってるから、頑張ってね、名前ちゃん」


上野さんに見送られてサエちゃんと目当ての機械に向かう。こうして良い人たちもいてくれるから、私の荒んだ心が少しずつ癒されていった。


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