ピー・エヌ | ナノ
語るに落ちる
( 21/32 )


ジムに通い始めてから、つまり仙道くんたちと出会ってから、気が付けば半年以上が経っていて。つい先日、大学の卒業と同時にジムのバイトも卒業したサエちゃんは、いつの間にか決まっていた就職先でこの春から新社会人として働いていた。

卒業を祝して一緒に飲みに行ったのが記憶に新しいまま、今日も仕事終わりにサエちゃんと約束をしていた。すっかり仲良くなった彼女と会うのを楽しみに、私は今日の仕事を乗り切った。


「名前……このあと、デート?」


職場の更衣室で着替えていると意味ありげな視線を送ってきた同期。「まさか」と苦笑しながら、そういや前にもこんなやり取りをしたなぁと昔を懐かしむ。

それよりもデートだと思った理由は何だと聞くと、下着が可愛いからと言われてしまった。今日はデートじゃないけれど、恋をすると無意識のうちにそんな所から変わっちゃうのか、なんて。この感じはすごく久しぶりで、自分の中の新しい発見になんだかむず痒い思いをした。






「はあ、今週も疲れたー!」
「お疲れさま、サエちゃん。好きなの頼んでね」
「わーい!給料日がきたら次は私に奢らせてくださいね」
「ふふ、ありがとう」


当たり前だけど、サエちゃんの近況報告はほとんどが仕事のことだった。配属先の先輩が優しいとか課長が面倒くさいとか、そんなことを話していると、いつの間にかサエちゃんの彼氏の話になった。


「実は同期と付き合ってるんです。めちゃくちゃ優しいんですよ。今までにないタイプで……まあ、ちょっと頼りないとこはあるんですけど」


えへへ、と顔を緩めるサエちゃんからはその彼とすこぶる順調な様子が伝わってきて、そのラブラブオーラに「お姉さん眩しいよ……」と少し目を細めた。ちなみに、前の彼とは遠距離になって別れてしまったらしい。




幸せな気分のまま料理やお酒に手をつけていたサエちゃんが「……それで?」と私を覗きこんだ。急なそれに、食べていたものをゴクリと飲み込む。


「名前さんは、仙道くんとどうなんです?……キスくらいした?」
「キ、キス!?いや、だって……私と仙道くんはそんなんじゃ……」
「何照れてるんですか!あんなにいちゃついといて」
「!なっ……」


いちゃついてない、と否定した私に「これだから無自覚はー」と納得していない表情のサエちゃん。そうは言われても、仙道くんとはジムで会ったら話すくらいで本当にいちゃついてなど無いのに。


「ストーカー事件からけっこう経ちますよ?名前さんだって仙道くんのこと好きって言ってたじゃないですかぁ」
「サエちゃん、しーっ!」


普通に話すサエちゃんに、声を潜めるようにお願いした。そしてキョロキョロと店内を見回す。このお店はジムから割と近いから、いつどこに知り合いがいるかも分からない。

慌てる私をよそに、サエちゃんはグラスに残ったビールを一気に飲み干した。そしてカタッ と机にグラスを戻すと、急に静かになる。あれ……どうした?


「私、おもうんですけど……」


少しして口を開いたサエちゃんが何を言うのかと待っていると、その間に席を通りかかった店員さんが「空いてるお皿とグラスお下げしますねー」と笑顔で言ってきたので、会釈をしてまたサエちゃんを見た。

その赤く火照った顔に気が付いて、そういえば、と彼女が今日飲んだグラスの数を指折り数える。


「いっそもう名前さんから告白すればいいですよ!」
「……サエちゃん、かなり酔ってるよね。普通な感じで喋ってるけど酔ってるよね?」
「絶対うまくいきますから!脈ありですから〜〜」


えへへ、と自信ありげに笑うその根拠はどこから来てるんだろう。もしそうなら嬉しいけど……と心の中で苦笑する。サエちゃんがこの状態じゃもうお開きにした方がいいかもしれない。


「そうだ今から仙道くん呼びましょーよ!」
「はいはい……それはまた今度ね」


駄々をこねるサエちゃんをなんとか宥めて、お会計を済ませた。「名前さん家泊めてくださ〜い」と上機嫌なサエちゃんは、私が返事をする前にタクシーをとめて先に乗り込んでしまう。そして、ぽんぽん、と自分の隣を叩いて私を呼んだ。

今さら再確認するけれど彼女は、かなりの美人だ。これが男の人の前だったら確実にお持ち帰りされちゃってる。今日は私と一緒だからいいものの、お酒の飲み方について社会の先輩として少しお説教をしたほうがいいかもしれないなぁ、と小さく溜息をついた。


「…………」
「どちらまで?」


なんて、そういえば自分だって記憶がなくなるほど飲んで仙道くんに迷惑をかけていたんだ。……人に注意できるような立場じゃなかった。

タクシーの運転手さんに家の住所を伝えてから、お互い気をつけようね、と隣で眠っているサエちゃんに笑いかけた。


PREVNEXT


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -