ピー・エヌ | ナノ
沈めば浮かぶ
( 17/32 )


「ご心配を、おかけしました……あははは」


晴れやかな気持ちと申し訳ない気持ちで、ドキドキしながらトレーニングルームに顔を出した。マシンの近くでサエちゃんと上野さんが二人で話しているのは、入り口から確認済みだ。

そこへしれっと現れて、勢いよく頭を下げた。


「いや〜おじさん安心した!」
「うう、名前さん、良かったですぅ……」


私の顔を見るなり上野さんは朗らかに笑い、サエちゃんはウルウルと涙を溜めて私の肩をガクガク揺らした。ああ、これも久しぶりのやり取りだなぁ、なんて呑気なことを考える。


「急に来なくなるから……私、寂しかったんですよ!」
「ごめ、ごめんね、サエちゃんっ」
「許さないいい!一緒にご飯いって夜まで遊んで家に泊めてくれないと許しませんよ……っ」
「う、うんっ……もちろんだよ、泊まってってくだ、さ……」


「サエちゃん……そろそろ離してあげないとダメだよ〜〜」


あまりの激しさに気持ち悪くなった私を助けようと、上野さんが間に入ってくれた。私の返事に満足したサエちゃんは、フラフラとベンチに腰掛けた私に「やりすぎちゃいました…?」と水を持ってきてくれた。それを受け取って、ふぅ、とひと息つく。

仙道くんと話して以来、嫌がらせや視線がパッタリと無くなって、平和にジム通いが出来るようになった。その中で、あの大学生たちの姿は一度も見ない。誰に聞いたわけじゃないけど、仙道くんが解決してくれたということ、そして彼女たちがこのジムにはもう来ないということはなんとなく理解していた。

可哀想だと思う気持ちもあったけれど、仕方がないとも思う。初めはきっと彼女たちも、純粋に仙道くんに憧れていただけだろうから。その気持ちが大きくなるにつれ、形振りかまわず嫉妬したりして。


……ある意味青春だよね。


周りの人を傷付けてもいいと思えてしまうくらい誰かを好きになるのって、少し怖い反面、実は凄いことだ。
彼女たちがまだ学生というだけで恋愛ひとつ取ってもキラキラして見えるのは、私が歳をとった証拠かもしれない。こんなこと言うと、上野さんあたりに「名前ちゃんだってまだ若いよー」なんて言われてしまいそうだけど。

そういえば、あまりに大人っぽいからつい忘れてしまいがちだけど、サエちゃんや仙道くんもまだ学生なんだよね。今まで聞かなかったけど、あの二人も嫉妬してしまうほど誰かを想ったりしてるのかな。あ、そういえばサエちゃんは彼氏いるって言ってたっけ。



「……どこ見てるの、名前さん」


私が珍しく真面目な顔して考え込んでいると、後ろからひょっこり現れた仙道くん。つい今しがた頭の中に浮かんでいた彼が登場して、肩がビクッとした。なんだか悪いことをしてしまった気分。


「佐伯さんと上野さんはあっちのマシンのほう行っちゃいましたよ」
「ほんとだ……気が付かなかった」
「……何考えてた?」
「うーん……仙道くんのこと、かな」
「え……」


仙道くんに聞きたいことはいくつかあった。あの子たちとどういう風に話したの?とか。でもそれを口にするのは違う気がして、心の中だけに留めた。その代わりに「ありがとう」とだけ伝えると、仙道くんは少し考えるそぶりをしたあと、ゆっくりと頷いてくれた。たぶん何に対してのお礼なのかを考えてたんだと思う。

なんだかんだあったけれど、無事に解決したようだし。前にも増して、仙道くんがニコニコ話しかけてくれるようになったし。その笑顔がまたちょっと心臓に悪いけれど、可愛いし。

まあ、うん、悪い気はしないよね。


PREVNEXT


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -