ピー・エヌ | ナノ
怪我の功名
( 12/32 )


仙道くんとご飯に行った次の日、楽しかった気分とは裏腹に私の体はダウンした。どうやら職場で流行っていたウイルスのせいみたいで、その日から数日は家で安静にしなくちゃならなかった。

仕事に関しては「お互い様だから」と言われ気が楽だったけど、心配なのは仙道くんに風邪をうつしていないだろうかということ。それと、お礼を言えてないのも気になっていた。きっと自惚れを抜きにしても、ジムに顔を出さない私のことを心配してくれてる……と思うし。申し訳ないなぁ、と深い溜息を吐いた。


「……なんで寝込むかな、私」


お陰で仙道くんへのお礼を何にするか考える時間はたっぷりとあった。






「上野さんお久しぶりです!」
「名前ちゃん、しばらく見なかったね〜」


体調が元に戻って少しした頃、ようやくジムにやってきた。私が顔を見せるとすぐに気付いた上野さんが、笑顔で手を振ってくれた。相変わらず癒し系なおじさんに私も微笑み返す。そして、ここ数日の出来事を話した。


「そうかそうか。辛かったろうね」
「あはは……お恥ずかしい限りなんですけど」
「誰だって疲れちゃうことはあるからさ、気にすることないよ」


頑張ったね、という言葉と一緒にポンと肩に置かれた手がとても温かく感じられた。ほんと、素敵なおじさまだなぁ。


「サエちゃんも仙道くんもずっと心配してたからさ、また顔見せてあげてね……あ、ほら。噂をすればなんとやらだ」


仙道くんを見つけた上野さんが「お〜〜い仙道くん!」と手招きをする。ゆっくりと振り返った彼は私と目が合うと、安心したように小さく笑った。


「じゃあおじさんは汗流してくるから〜あとは若い二人で!はっはっは」


仙道くんが近くに来るなり上野さんはそう言って更衣室に向かってしまった。


「行っちゃった」
「クク、なんか上野さん変な気使ってる」
「……みたいだね」
「……それで、名前さんは何があったの?」
「うん。実はいろいろと、ね」


上野さんと同じように今日までのことを話すと、仙道くんは首の後ろに手をやりながら「……ハァ」と軽く息を吐き出した。私がその様子にハテナを浮かべていると、「避けられたのかと思ってた」と言って力なく笑った。私はそれをすぐさま否定する。感謝しかしていないし、むしろ迷惑をかけたのは私の方だ。


「ずいぶん遅くなったけど、この間は家まで送ってくれてありがとう……ちゃんとお礼、言ってなかったから」
「どういたしまして」
「ねえ、今日はその……仕事何時まで?」
「もしかしてお誘い?」
「違うよ!ちょっと渡したいものがあるだけ!」
「ハハハ、そんな否定しなくても。なんだろう楽しみだな」


少し話せば仙道くんから不安の表情は無くなり、すぐにいつもの調子に戻っていた。それが嬉しくて、私も一緒になって笑った。






「これ……名前さんが持ってたのと同じやつ」
「前に懐かしいって言ってたから……迷惑かけちゃったし、一応お礼のつもりなんだけど……」


もしかしたらこんなふうに物を渡されても困るかなぁ、なんて考えて緊張していた私。この色のタオルのこと、覚えてくれてたんだと少しほっとした。
仙道くんに渡したのは、以前拾ってもらったタオルと同じ柄の物。高校の時のユニフォームに似てるというあれだ。反応を見る限り、喜んでくれているのが分かる。


「お揃いっすね」
「……っ、うん」


なんというか、いつものニコニコ顔よりももっともっと柔らかい微笑みを向けられて胸の真ん中がきゅう、と締め付けられたような気がした。


PREVNEXT


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -