ピー・エヌ | ナノ
知りて知らざれ
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そんなこんなで、仙道くんの仕事が終わるのに合わせて駅で待ち合わせした私たちは、彼がたまに行くという大衆居酒屋にやってきた。
席に着くなり「そういや名前さんってさ」と切り出した仙道くんに耳を傾ける。


「佐伯さんと仲良いよね。こないだ飲みに行ったって聞きました」
「うん。サエちゃんとは年も近いし」
「俺もあんまり変わんないんだけどな」


話しながらメニューを広げて私に見せると、慣れた感じで店員さんに注文をする仙道くん。店員の女の子はそれらを復唱してからチラリと彼を盗み見て、頬をほんのりと染めていた。そりゃあ、私だって逆の立場ならそうなると思う。それくらい誰が見ても彼はイケメンだということだ。


「三つ年下って、すごく遠く感じる」
「なんかやだ」
「弟みたいな?」
「ちぇっ……」


少し拗ねたような彼が可愛くて笑う。向かい合って頬杖をつく姿は多分いつもの仙道くんよりも自然体で、身構えていた私もいつの間にか和んでいた。

にこにこ、いつにも増して上機嫌。仙道くんてこんな風に笑うとなんだか幼く見える。口では嫌がってても実際は私のことをお姉ちゃんくらいに思ってくれてるのかもしれないな。そんな風に考えてたら、お料理にもお酒にもどんどん手が伸びて本当にいい気分だった。


「ああ……幸せ……」
「それは良かった。好きなだけ食べてくださいね」
「……うん、でも、またリバウンドしちゃったらもう立ち直れないかも」
「どうして?俺はもっとぽっちゃりでも好きだけど」
「え〜〜それはどうかと思うよ」


はあ、と溜息をついた私に仙道くんからの何気ないジャブ。普通なら効果てきめんのその言葉も、イケメン耐性が付きつつある今の私にはそこまでの威力は無い。

そうこうしているうちに、頭がふわふわして自分でも良く分からなくなってきた。さっきまで何ともなかったのに。お腹がいっぱいで眠たいし、体が熱い気もする。


「名前さん、酔ってる?」
「うん……そうかも……」


頭の隅っこでそういえば残業続きで寝不足だったんだと、ぼんやり思い出す。それにジムで目一杯汗を流してきたんだ。そりゃあ疲れてるに決まってる。最後に見たのは机の上にたくさん並んだ空のグラスだった。


「いたたたた……あぁ……頭痛い」


ズキズキする額を手で押さえながらむくりと体を起こすと、そこはいつも通りの私の部屋だった。はて、私はどうやって家に帰ってきたのか。曖昧な記憶を一生懸命手繰り寄せてみたものの、どうにも上手くいかない。服こそ着替えてない状態だけどちゃんとベットで寝ていたと言うことは……


「……たぶん仙道くんに送ってもらったんだよね。今度会ったら、謝らないと」


まったく、年下の男の子に迷惑かけて何やってんだか……気を抜きすぎだと反省する。それにしても、想定外とはいえ仙道くんにこの部屋を見られたのか……と少し落ち込んだ。片付けも程々だし、お世辞にも大人の女性らしさは無い。下着とかが落ちてなかっただけまだマシか、と肩を竦めた。

ベッドから足を下ろしたとき、サイドテーブルにあったメモ帳に知らない字を見つけた。


「……置き手紙?」

『昨日は楽しかった。抱えて運んだけどセクハラにならないよね?鍵はポストに入れておきます』

「ふふ」


癖のあるその文字をなぞっていると、不思議と笑みがこぼれる。お世話になったお礼に何をすれば彼は喜んでくれるだろうかと考えながら、とりあえずシャワーを浴びることにした。


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