誰でもいい訳じゃなく
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「名字は何か部活はしないのか?」
「ええー?なんで急に?」
「……退屈だって言ってただろ」
授業の合間の休み時間、隣の席で本を読んでいる名字に聞いてみた。特に意味は無かったが、ふと気になったというのが本音だ。
「私に団体行動って向いてないんだよね……」
「まあ……そうだろうな」
「分かってるなら聞かないでよ、赤木君」
本に目を落としたまま、こちらを見ようとしない名字。彼女は読書を好んでいて、休み時間は専らそれに費やされていた。
「それにさ、入るには遅いんじゃない?」
私たちもうすぐ二年生だよ、と返されて俺は少し考える。……もしここで、今の俺の全てと言っても過言ではないバスケ部に名字を誘ったら、彼女はどう答えるだろうか。やっぱり向いてないからと断るか?
実はこれはただの思いつきではなくて、前から考えていた事だった。今のバスケ部にマネージャーは居ない。そうなると怪我の手当てや練習のサポートなどは選手が交代でやっているのが現状だ。しかし全国を目指すのだから、選手はなるべく練習に集中しなくては駄目だ。勝つためには、マネージャーが必要なんだ。
「どうしたの……なんか、すごく悩んでるみたいな顔してるけど」
いつの間にか本から顔を上げて俺を覗き込んでいた名字。手元にあった本は栞を挟んで閉じられている。首を傾げて問い詰めるような目をした彼女を前に、気が付けば口が勝手に動いていた。
「……バスケ部のマネージャー、しないか?」
え、と驚く名字を見てやっぱりダメかと内心で溜息をついた。
「無理にとは……」
「嬉しいけど、私……まったくの初心者だよ」
今度はさっきの彼女よりも俺が驚く番だった。拒絶されたわけでも、否定されたわけでもない。
しばらく何か考えるように唸っていたかと思えば、その大きな瞳が真っ直ぐに俺を見た。
「とりあえず……入るかは別としてさ。練習、観に行ってもいい?」
「あ、当たり前だ!」
あっという間に一年が過ぎようとしていた。あと数週間で終業式。名字と出会って半年以上も経っているのかと思うと、その時間の早さにただただ驚いた。