笑顔と約束
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十二月になると途端に肌寒さが際立ち、名字は人一倍防寒具を身につけるようになった。比較的薄着の俺を遠い目で見ながら「寒くないの?」と聞いてくる。
筋肉質だからかどうかは分からないが、冬の寒さが苦手だと思ったことは無かった。平気だと答えると彼女は俺の手をぎゅ、と握りその温度の違いに少し驚いた顔をして、それから幸せそうに笑った。
「……あったかーい」
「……俺はカイロじゃないぞ」
今日までこうしてそれなりに彼女と接してきて、気付いたことがある。名字は他人と距離を置くわりに、俺のような友人には躊躇いなく触れるんだ。今みたいに、手を握ったり。それは野生の猫が自分にだけ懐いているような感覚で、悪い気はしなかった。
少しだけ、体温が上がる。
授業が全て終わり、待ち望んでいた部活の時間がやってきた。体育館への道すがら、一緒に昇降口に向かっていた名字が俺と木暮を見上げて聞く。
「そういや冬休みになったらすぐクリスマスだね。二人は部活?」
「今年のクリスマスは……午前練だけだったよな、赤木?」
「ああ」
確かめるように俺を振り返った木暮は、この三人でいる時いつも楽しそうだ。
「って言っても部活が終わったら家に帰るだけか……はは」
「私なんて部活すらないし」
「え、名字も予定ないの?その……彼氏とかは」
「そんなのいたら君たちといない」
「おいっ!」
木暮と名字がそんな会話をしているとき、俺は妹の言葉を思い出していた。確か、今年のクリスマスはケーキを焼くから、と言っていた気がする。
……たまには家に友人を呼ぶのも、悪くないかもしれない。どうせ恋人なんていないんだから。こいつらも一緒に食べたらいい。
「クリスマス……家に来ないか?ケーキを焼くんだ」
「……え?」
「……く、くく……あはははっ」
階段を下りきったところで、立ち止まる二人。目を丸くして固まっている木暮と、腹を抱える名字。
頭にハテナを浮かべる俺に、揃って口を開いた。
「「赤木(君)が……ケーキ!」」
お菓子作るの得意なの?と涙まで浮かべる名字に俺は慌てて付け足す。
「ち、違うぞ……っ!」
ケーキを焼くのは妹だ!と叫べばその笑いも幾分か治まってきた様だった。まったく失礼な奴らだ。
だいたい、木暮は晴子のことを知っているのだから分かるだろうとキッと睨んだ。
「ご、ごめんって。お前が作ってるとこ想像しちゃって……そんな怒るなよ」
「……フン」
「赤木君って妹がいるんだね。会ってみたいな」
クリスマス、楽しみ。と嬉しそうにしている名字。普段クラスメイトには見せないような笑顔だったから、俺も木暮も目を見合わせて笑った。