夏の日和と人ごころ | ナノ
誰よりも高く跳べ
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「フェイダウェイ……」


彩子のその呟きに、へえーあれが、と感心した。初めて見たそのシュートの凄さは、みんなの表情を見ればすぐに分かる。まさか剛憲のシュートブロックがあんな風に躱されるなんて思いもしなかった。

……翔陽の花形。去年は控えにいた彼が、今年はその存在感を大いに発揮していた。



ピピーッ!


電光掲示板の得点差に目を細めていると、審判の笛が鳴った。


「ああっ、しまった!!」


何事かとコートを見やれば、表情を歪めて焦った様子の桜木。開始早々ひとつ目のファウルを取られてしまい、それをすかさず剛憲に咎められているところだった。


あれほど退場は許さないって脅し……言ったのに!


早くも一方的になるかという雰囲気が漂っていた中、流れを変えてくれたのは流川のスーパープレーだった。

花形のシュートモーションの隙を突いてボールを奪い、流れるようなワンマン速攻、そして周囲には脇目も振らず飛び込んで鮮やかなダブルクラッチ。流川の強引なプレーにそれぞれ賛否はあれど、湘北に勢いをつけるには十分だった。


やっぱりあの子、すごい……


さらに彼の勢いは止まらなかった。桜木が力んで外したボールに指先で軽く触れ、そのまま点数へ繋げた流川には惚れ惚れするような溜息がでる。

普段は無口で大人しくて正直何を考えているのかも分かりにくい子だけれど。ことバスケになるとこれ程にも頼りになるのかと再確認したのは、なにも私だけじゃない筈だ。


「「「キャ〜〜〜〜!」」」
「「「ル・カ・ワ!!」」」
「「「ル・カ・ワ!!」」」


そして、彼の人気というのも改めて思い知った。観客席から響く親衛隊の声援に苦笑いしていると、コートにいる流川と視線が合う。無表情で見つめてくる姿に首を傾げると、すぐに顔を逸らされた。

いったい何だったのかと考えていた私の意識は、すぐに試合へ戻る。湘北は素早い攻撃で桜木が速攻をモノにし、さらに宮城の活躍で点を積んだ。



「チャージドタイムアウト……翔陽!!」


翔陽がここで一度タイムアウトを取り、ゲームが再開すると、次に会場を沸かせたのは寿のスリーポイントだった。 かつて中学でMVPに輝いたことのある三井寿を知る人が多いのか、会場からは驚きの声が上がる。

「なぜ2年も出てこなかったんだ!」と誰かが叫び、それに対して桜木軍団のひとりが「グレてたから」と答えたのがベンチにいた私の耳にも聞こえて、これには苦笑せざるを得なかった。まったくその通りだ。


「さあ気合いれていくぞ!!翔陽の力を見せてやる……っ!!」


花形の気迫に、一度は立ち上がったはずの藤真がまたベンチに戻ってしまった。もう少しだったのに、と心の中で舌打ちをひとつ。翔陽に勝つためには出来るだけ早く彼を引きずりだしたい。

ジャージを羽織り直す藤真を横目にしながら彩子や他のメンバーと共に声を出す。強引に決めにいった寿のシュートはオフェンスチャージングを取られ、またも花形にしてやられた。ジリジリと開く点差に、皆の顔にも焦りが浮かぶ。

前半残り5秒。トドメを刺すような翔陽のシュートが、かろうじてゴールに弾かれた。そして。



「リバウンド王桜木!!!」


誰よりも高く跳んでボールを掴み取ったのは桜木。自ら吠えた彼に続いて、会場を震わすほどの歓声が上がった。


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