夏の日和と人ごころ | ナノ
俺たちがやりました
( 30/38 )


キュッ、キュ、といくつものバッシュの音が日曜の体育館に鳴り響く。県大会まであと一週間に迫ると、剛憲や公延はもちろん部員みんなの顔つきが日に日に引き締まっていた。


「宮城!足が止まってるぞ、へばったかァ?」
「む……ていっ!!」


公延のパスを素早い動きでカットした宮城は、剛憲に見せつけるようにピースをした。その生意気というか、負けん気の強い姿に剛憲は「やれやれ」と溜息を吐き、目が合った私にはフ、と小さく微笑んだ。私も微笑み返してから、コートに立ったある人物に視線を移した。

そうして、先日の出来事をちょっとだけ思い起こす。






「お前たち……!」
「どういうことなんだ!こんな事してただじゃ済まさんぞ!?」


「バスケがしたい」という、三井の心からの言葉に、どれだけ傷付けられていようと異議を唱える部員はいなかった。しかし、安西先生の後ろから体育館の光景を目にした複数の教師たちは、不良グループに、そしてバスケ部にも厳しい目を向けきつく怒鳴った。


まずいよね、これ、どうしよう……


怒る教師を前にして、さてどう説明したものかと頭をひねるけれど、私にはいい考えなんて一つも浮かんでこなかった。血まみれの桜木と流川が私の隣で同じようにして唸っている。きっと彼らにも考えなんて無い。

……そんな時だった。



「三井君が……」


桜木軍団の1人……水戸という1年生が突然声を発し、役者顔負けの演技で大嘘をつきはじめた。


「三井君が俺たちのグループを抜けてバスケ部に戻るなんて言うから……ちょっと頭きてやっちゃいました」


バスケ部も、三井君も。と言って謝罪の言葉を口にした水戸を桜木が目を丸くして見つめた。


「……、なあ?そうだろ堀田先輩」
「……!」


ちっとも反省して無さそうな強気な表情で堀田と教師の方を向く水戸。彼があまりに堂々と嘘をつくので、私を始めバスケ部はみんなポカンと口を開けて、ただ成り行きを見守った。今はもう彼に任せるしかなかった。


「スンマセン」
「そうなんす」
「実は俺たちが」
「なあ堀田番長」
「組長」
「大統領」


水戸に続いて教師たちの前に身を乗り出した残りの桜木軍団の子たちが、さもこの騒動を一緒に仕組んでいたかのように堀田を誘導する。


「そ……そうです……俺たちがやりました!」
「…………」


覚悟を決めた堀田に三井は何も言わなかったけれど。その行動に驚いていることは誰が見ても明らかだった。涙を流す三井の姿はボロボロで、教師たちの目に水戸の嘘は真実だと映ったらしい。

……かくして、桜木軍団と堀田たちが3日間の謹慎処分を受けるというカタチで、この騒動は幕を下ろしたのだった。




「ソー!!エイ、オウ!!!」
「…………」


試合に向けてやる気十分といった桜木の大きな声が、私の意識を引き戻す。


スパッ、


「どーすか名前さん!見てくれましたか!」
「見た見た」


得意のレイアップを決めると自慢げにドヤ顔を向けてくるので、内心では「子供か」と少し呆れながら桜木に拍手を送った。


「やはり天才……ルカワなんぞとは比べものにならない……」
「はいはい。天才天才」
「ナーッハッハッハ!」

「……どあほう」


腰に手を当て仰け反るようにして笑う桜木を背に、はぁ、と肩を竦めた流川。彼らの顔には何枚も絆創膏やガーゼが貼ってあり、先日の喧嘩の激しさがよく分かる。彼らに限らず、宮城や他の怪我をした子たちもそれは同じだった。


「みんな良い顔だね。絆創膏だらけで」
「そうすか!」
「たわけが……褒めとらん」


3対3の練習で、公延の上からダンクを決めた剛憲がいつの間にか私の隣に立っていた。汗を拭いながら次のオフェンスに目を向ける。

この練習はディフェンスがオフェンスの攻撃を止めるまで交代出来ないという、なかなか難しい練習で。もう連続でディフェンスをしている公延や他の二人からは疲労の色が見えた。



「行くぜ」


公延と向かい合いそう言い放ったのは、長かった髪を切って別人のようになった三井だ。彼の頬にもたくさんの治療の跡がありまだ少し腫れが目立っていたけれど。意地もプライドも捨ててバスケ部に戻ってきた三井の表情からは、憑き物が落ちたような爽やかさが感じられた。


部員たちに信頼されるまでは時間が必要だろうけど……


「ディフェンスあめーよ、木暮」


僅かなプレーで部員たちを惹きつけた三井は、楽しそうに口元を緩めた。他の誰よりも三井の帰りを待っていた公延は、あっさりと決められてしまったシュートに顔をひきつらせながらも、喜びに目を細めていた。


「話に聞いた通りのプレーだね……本当に、綺麗なシュート」」
「ああ……2年もブランクがあるとは思えねーな」


私の呟きに剛憲から返事が返ってくる。


「三井先輩!ナイス!」


彩子の声援に照れ臭そうにしている三井を眺めてから上機嫌の剛憲を見上げると、なんとなく、彼の横顔が今までで一番キラキラと輝いてるように感じた。

照明のせいかとも思ったけれど、何度か瞬きを繰り返してもう一度見ると、やっぱりその横顔は輝いて見えた。


「……なんだ名前。俺の顔に何かついてるか?」
「いや、ごめん……なんでもないの」


……私の目が、おかしいのかもなぁ。


PREVNEXT


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -