夏の日和と人ごころ | ナノ
赤髪の問題児
( 22/38 )


オオオオオ!


陵南ベンチと観客たちとの歓声が体育館に響くと、スコアボードの得点係が19点目を捲った。これで0対19。ゲームがスタートしてから未だ湘北の得点は無かった。


「ああっ 強すぎるよ陵南は!」
「ウチが戦えるような相手じゃなかったんだ……!!」

「こぉら、それ以上弱気なこと言ったら……正座させるからね?」


ヒィ、と怯える1年生たちに微笑みかけると、慌てて視線をそらされた。そんなに怖がらなくても、と苦笑をひとつ。

そんなやりとりをしてる間に、コートでは陵南のアリウープを読んでいた流川が綺麗にパスカットをした。完全に出鼻をくじかれていた湘北はこの流川のプレーで勢いをつけ、さらに流川のアシストで剛憲が豪快なダンクを決める。

ゴールが軋むほどのそれに田岡先生は顔をしかめ、逆に安西先生は笑みを浮かべた。かくいう私もついつい口元が緩む。私は剛憲のダンクが、すごく好きだから。


「さあ、ここを一本、頑張るぞ!」

「「「おお……っ!」」」


剛憲の声かけに湘北の応援は盛り上がり、流れが変わるのを皆が等しく感じていた。それは観客にも言えることで、体育館の二階からもいろんな声援が聞こえていた。


「お兄ちゃん頑張って!!」


晴子ちゃんの声は他より少し高くて、ベンチからでもどこにいるかがすぐに分かった。応援に来てくれてたんだ、とその姿を視界に捉えて微笑む。あんなに可愛い妹がいる剛憲が少し羨ましく思えた。


「ハ……ハルコさんがいる!」


私と同じように晴子ちゃんの存在に気が付いた桜木は、晴子ちゃんに良いところを見せたいがために「俺の出番はまだか!」と安西先生を急かした。
先生の顎をタプタプ揺らすという失礼極まりない行動に私のこめかみがぴくりと動いたけれど、すかさずハリセンでこれを咎めてくれた彩子にこの場は任せた。

実力を発揮する剛憲と流川に続いて、他のメンバーもようやく思いきったプレーが出来るようになってきた。そこからは湘北と陵南が互いに点を重ね、両チームの点差は徐々に縮まっていく。


「外れたぞっ」
「リバウンドだ…!」


ゴールに弾かれた剛憲のシュートを流川がそのままダンクで押し込み、あっという間に前半終了のブザーが鳴った。スコアに流川の得点を記入し、42対50という結果に「まずまず、かな」と笑みを浮かべた。






後半に入っても、湘北の勢いは止まらない。

流川のスリーポイントが決まると、見かねた田岡監督は、すぐさまタイムアウトを取った。それはイコール湘北が陵南を押していて、完全に流れがこちらにあるということ。

ベンチに戻った選手たちにドリンクボトルを手渡してから、安西先生の指示を仰ぐ彼らの後ろに立った。


あれ、桜木がいない……?


ふと周囲を見渡すと、いやでも目立つはずの赤頭がいなかった。


……嫌な予感。


まさかと思いつつ陵南ベンチを見てみれば、選手たちに怒号を飛ばす田岡監督のそばでひっそりと聞き耳を立てている桜木を見つけた。
本人はうまくベンチの陰に隠れているつもりかもしれないけど、その大きな体はどうやっても目立っていて、すぐに部員に見つかっていた。


またあの子は何してるの……


そのスポーツマンらしからぬ行為に当然、陵南の部員たちは怒った。まったく怯むことのない桜木は、今度は堂々と監督の前まで歩いていくと、鋭い目つきで口を開いた。


「湘北はゴリとルカワだけじゃねーんだ」


ざけんなよクソジジイ、と田岡監督に向かって啖呵を切った桜木。たぶん、剛憲と流川を抑えれば勝てるみたいなことを聞いてむかついたんだろうけれど。
それに対して陵南の部員たちは桜木を大いに非難した。当然だ。だってどう考えても相手チームの監督への口の聞き方じゃないもの。でも桜木をいくら注意したところで、彼の物怖じしない態度が変わらないのも事実で。

困ったものだと溜息を吐いた私の隣では、休憩していたはずの剛憲がわなわなと体を震わせていた。


「バカタレが!!」


ゴン


鈍い音がして、桜木は殴られた頭をおさえた。部員の非礼を詫びて田岡監督に頭を下げた剛憲。
監督はすぐに許してくれたけれど、「あの男はやめさせた方が部のためだぞ」と忠告をされてしまった。それには剛憲も曖昧に頷き、ほどなくして再開した試合に意識を戻した。





「オフェンス、チャージング!白4番!」


陵南のファウルでまた試合が止まる。魚住君の肘がディフェンスをしていた剛憲の瞼を切り、顔の半分が血で染まっていた。私はすぐに救急箱を掴んで駆け寄り、ひとまずその傷をガーゼで押さえる。

田岡監督が医務室を案内するよう部員に指示してくれた。


「お……おい、赤木」
「気にするな。すぐ戻るさ」


責任を感じて心配する魚住君に笑いかけると今度は桜木を呼び止め、「代わりはお前だ」と言い残した剛憲。

医務室に案内される前に彩子を振り返って視線を合わせた。何も言わずとも彩子がしっかりと頷いたので、後のことは任せてそのまま剛憲に付き添う。

試合の残り時間は9分を切っていた。


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