夏の日和と人ごころ | ナノ
エースの登場
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「それじゃあ、ユニフォームを配ります。スタメンと番号は先生から」


陵南の部員に案内された更衣室で、安西先生を中心に整列する。先生の隣でユニフォームを手に立つと、みんなの視線が私の手元に集まった。

その中でもひと際ソワソワとして落ち着きのない桜木を見て、頬が緩んだ。期待してるところかわいそうだけど、いきなりのスタメンはあり得ないからねと心の中で呟く。


「センターは赤木君、ナンバー4」


安西先生から一番に呼ばれた剛憲は、気合いのこもった返事でユニフォームを受け取った。感情が高揚した様子の目で私を見たので、「頑張れ」と一言添えて微笑んだ。大きく頷いた剛憲に満足して、次々呼ばれる部員へ向き直る。


「スモールフォワード、木暮君。ナンバーは5だ」
「はい!!」

「……そして最後に、パワーフォワード」


公延にユニフォームを手渡すと、残るスタメン枠は一人になった。


まあ、最後は決まってるよね。


「流川君」
「はい」


終始落ち着いた様子の流川がのっそりと私の前に立つ。そのクールな顔を見上げると何か言いたげな表情をしていた。ん?と目で促せば、流川はユニフォームを受け取りながらボソリと一言、「仙道は俺が倒す」と言った。


「あ、ははっ……よろしく」
「……、ウス」


ポーカーフェイスと見せかけて闘志に燃えている後輩を前に、思わず声を出して笑ってしまった。


「ぬっ……!ちょっと待てぇぇえッ!」


スタメンはおろかユニフォームすら貰えなかった桜木は案の定大暴れし、それを抑えるのに剛憲や他の部員が奮闘してくれていたので、笑っている私とそれを珍しそうに見下ろす流川に気付いてる人はいなかった。

最終的には「君は秘密兵器だからスタメンじゃない」という先生の言葉で落ち着いたけれど、流川からユニフォームを奪おうとしたりそのあまりにもワガママな言動に呆れた私は、桜木を正座させて少しお説教をした。


「桜木、他に言うことは?」
「……ゴメンナサイ」


大人しくお説教される素直な桜木の姿に1、2年生たちは驚いていた。誰かが後ろで「名字先輩すごい……」と呟いたのが聞こえた。

しゅんとした桜木の頭を撫でて解放してあげると、それを見かねた公延が流川を説得してナンバー10のユニフォームを桜木に着せていた。途端に嬉しそうな顔をする桜木だけど、そのおかげで流川は番号がひとつズレて11に。


「「甘すぎる……」」


見事にハモった私と剛憲は「揉め事はもうたくさんだろ」と苦笑いする公延を横目に、揃って溜息をついた。





「……まだ来てない、か」
「確かに姿が見えないっすねぇ。いつもならすぐ名前先輩の所に来るのに!」
「彩子、なんか楽しんでない?」
「……バレてます?」


私が「陵南」を苦手な理由はズバリ「仙道」にあった。

一体私のどこが気に入られたのか、会うたび妙に構ってくるのだ。そして周りの目も気にせず近づいてきては好きだのと宣うので、正直彼のことは苦手に思っている。


「あ、……」


ガラガラという音が聞こえて体育館の入り口に目をやると、噂をすればなんとやら、そこに現れたのは未だ不在だった仙道 彰だ。陵南の1年生達がすかさず「チワース!」と挨拶をした。


「コラァーッ!この馬鹿者っ!!なにしとったんじゃあ仙道!!」
「……すいません先生、寝坊です」

その姿を見つけるなり大声で怒鳴った田岡監督にもヘラリとした表情で謝罪する。その相変わらずな様子に私はやれやれと目を細めた。


素早く着替えを済ませた仙道は、陵南のスターティングメンバーとしてコートに立った。かと思えば、ぐるりと湘北ベンチを振り返り、その視線が私に止まる。


見ててね。


口パクでそう言うと、ニカッと微笑んで背を向けた仙道。


「…………」


う、と息を詰まらせた私は、なにやら強烈な視線を感じて隣を見た。そこには目を丸くして私を窺う1年生たちがいて。その視線からは「どういう関係ですか」と問われている気がしてならなかった。

にやにやと笑っている彩子を軽く肘で突いて、とりあえず、「試合に集中しなさい」と全員を睨み付けておいた。


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