夏の日和と人ごころ | ナノ
季節はずれの転校生
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「名字名前といいます……よろしく、お願いします」


高校一年の夏休み明け、そんな微妙な時期に転校して来た名字の第一印象は"とにかく物静かな女"だった。

この時の俺は正直、どんどん減っていく部員のことばかりを考えていて、転校生にはさほど興味がなかった。というか、そんな余裕がなかった。
同じ学年の奴らが彼女について"美人"だとか"賢そう"なんて噂をしていても、軽く聞き流していたことを覚えている。



「赤木君、どうかした?」


いつの間にか授業が終わっていたらしく、俺の目の前にはさっきまで頭の中で考えていた名字の顔があった。

彼女がうちのクラスの一員になり俺と前後の席になってから、もうそろそろひと月が経つ。
初めに抱いた印象よりもずっと明るくて気さくな彼女の性格のおかげで俺たちはそれなりに打ち解けた仲になっているんじゃないかと思っていた。
少なくとも、俺はそう感じている。


「珍しいね」
「……何がだ?」
「赤木君がぼうっとしてるの」


彼女の中で自分がどんなイメージなのかは知らないが俺だって物思いにふける事くらい、ある。

黙る俺をじっと見つめる名字に何か言わなくてはと考えていると、彼女はゆっくりと自分の右腕を俺の方に伸ばして見せた。正確には、その手首にある腕時計を。


「ゆっくりしてていいの?部活、始まる時間だけど」
「……みたいだな」


時計の針が指す時間を見て立ち上がった俺は、ちょうど教室の入り口から顔を覗かせていた木暮を見つけた。


「あ、木暮君。グッドタイミング」


考え事してるみたいだから連れてってあげてと、そう言って俺の背を押しながら笑う名字が夏の陽射しみたいに眩しくて、俺は思わず目を細めていた。


そんな名字と、一緒に夢を追いかけるかけがえのない仲間になるなんて、この頃は思ってもいなかった。



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