夏の日和と人ごころ | ナノ
喧嘩するほど
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「えっ……試合するの!?」
「そうなの。晴子ちゃんいい時に来たね」


これからゲームがスタートするというタイミングで体育館に顔を出した晴子ちゃんは、その可愛い目をまん丸にして私に問いかけた。その姿を見ていると、やっぱり彼女が剛憲の妹だとは信じがたい。あまりに似てなさすぎる。
……これを言うと剛憲が拗ねるから本人には言わないけれど。

すかさず側までやって来た桜木と彩子とでゲームを観戦する。


「流川ディフェンス上手くなったな……でもまあ、1年が勝つなんてことはまずないわね」


スゴイと言ってもまだ中学レベルよ、と流川を評価する彩子。流川の活躍を素直に受け止めたくない様子の桜木は、彩子の口から出た言葉に嬉しそうな顔をして頷いていた。


「そんなの分かんないわよ彩子さん!」


逆に、食い下がったのは昔から彼に憧れている晴子ちゃんだった。


「赤木先輩がいるのよ?赤木先輩に流川ごとき≠ェ勝てるわけないわよ」
「ごっ、ごとき!?」


彩子の言い草が頭にきた様子の晴子ちゃんは、フンと鼻息を荒くして目を細めた。


「どーして流川君がお兄ちゃんごときに負けるんですか!お兄ちゃんなんて桜木君ごとき≠ノ負けたばっかりなのよ!?」


グサ、と隣にいる桜木から心をえぐられる音が聞こえてきた。うん、晴子ちゃん、それは無いよ。ちょっと酷い。


「あらぁ?お兄さんのことそんな風に言ってもいいのかしら?かわいそうだわ」
「……彩子さんこそ、流川君は富中の後輩でしょう。ちょっと冷たくないですか?」


試合を放ったらかしで口論する二人を、私と桜木は一歩引いたところで眺めるだけで。晴子ちゃんのあまりの剣幕に私たちは顔を見合わせるだけだった。

すると、桜木が何やら口を開く。


「……名前さんは、ゴリとルカワどっちが勝つと思ってんすか」
「えー……そうだな、まあ、剛憲かな。これはチーム戦だからね。流川ひとりが凄くてもそれだけじゃ勝てないし」
「そ、そーっすよね!」


突然の質問に一瞬戸惑ったものの、すぐに自分の考えを口にした。桜木は私の返答を聞くと先ほどよりも気分良さそうに笑っている。


「それよりも、見学だって学ぶことは多いんだから、みんなのプレーをちゃんと見なさい」
「任せてください!」
「いい返事だね」


桜木をハリセンで引っ叩いたあの時から、不思議なことに桜木は私に話しかけることが多くなった。分からないことを聞いてきたり、時には晴子ちゃんについても。

厳しくすると大抵の子は怯えて私と距離を取るかすぐに辞めるかがほとんどだったのに、桜木はそのどちらとも違った。まあ、そもそもアレくらいで怖気付くような性格だったら剛憲に喧嘩売ってまでバスケ部に入部は出来なかったんだろうけど。

私は聞かれたことにはなるべく丁寧に答えるようにした。こんな風に後輩に「名前さん」と気軽に接してもらえるのが本当は嬉しかったし、私自身が桜木のことを特に気に入ったから。






ゲームの残り時間があと数秒にせまった時、ドゴッ という音を立てて頭にダンクを食らったのは、まさかの剛憲だった。そして、そのダンクを放ったのは言わずもがな、初心者の桜木。


「貴様、今度という今度はもう許さんぞ……っ!!」
「ぐっ……ワザとじゃないっつってんだろ!」
「いい気味だ」
「ルカワてめー!それでもチームメイトか……!」


怒りが爆発した剛憲は桜木の首を本気で締めにかかっていて、その様子を愉快そうに見ているだけの流川に対して喚く桜木。都合のいい時だけ流川を「チームメイト」と呼ぶ彼に、周りにいた全員が内心でつっこむ。

ゲームの後半、安西先生に直談判してやっとのことでゲームに参加した桜木だったけれど、流川にパスをしようとしないどころか同じチームメイトの言葉も聞かず、挙句、主将への最後のダンク。


やっぱり桜木にはまだ早かったかな……


呆れて何も言えなかった私は、恐る恐る安西先生の方を盗み見た。


「面白いですねぇ」
「……?」


怒っているだろうかと思っていたら、先生はとても穏やかに、それでいてなんとなくワクワクしたような顔でコートの様子を見守っていた。

最後はともかく、流川の活躍は群を抜いていたし、それに刺激されて上級生たちも良い動きをしていた。そういう意味では、安西先生もこれからが本当に楽しみだと考えているのかもしれない。



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