夏の日和と人ごころ | ナノ
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インターハイ予選の決勝リーグは観客席が殆ど埋まるくらいに盛り上がっていた。シュートが決まったり息を飲むようなプレーがあると、皆が歓声をあげ、会場を熱気で包んでいた。

過去15年連続インターハイ出場をしている海南大附属と強豪翔陽の試合は、どちらも一進一退。その中でも特に目立っていたのは、俺と同学年の二人の男だった。



「ねえ、公延……牧君ってポジションでいうとどこなの?フォワード?」
「うーん、実際はポイントガードかな。今は3年のガードがいるから下がってるけどね。来年はもちろん中心になると思うよ」
「……となると、牧君とのマッチアップは宮城ってことか」
「あ、ああ……」


県予選の一回戦、陵南に負けた俺たちはすでに新チームに移行していた。俺は主将を任され、木暮が副主将に。冬まで残る先輩はひとりもいなかったが、寧ろこれでいいと思った。湘北が全国制覇を成し遂げるためにはいくら時間があっても足りないからだ。

安西先生は「決勝リーグは必ず観に行きなさい」と言った。得るものが多いからと。そういうわけで、チーム全員でコートを見下ろしているのだが、俺の隣では名前が一生懸命にスコアを取りながら反対側にいる木暮と話をしていた。


「……あと、藤真君の相手もしなきゃだよね」
「……そうなるな」

「なんだお前ら、弱気になってんのか?」


二人の会話につい口を出す。
いきなり間に入った俺を特に気にする様子もなく、名前はこちらを振り返り「違うよ」と笑った。木暮を見ても、なぜか同じ反応をした。

もう一度名前の方に視線をやれば、今度はかなり強気な目で見つめ返される。予想外なそれにドキ、と心臓が音を立てた。


「本気じゃないと間に合わないってこと」
「……その通りだ」
「頼りにしてますよ、キャプテン」


自分でも情けないとは思いつつ、おう、と返事をするのがやっとだった。バスケ部に入ってまだ数ヶ月だというのに、彼女は誰よりも先を見据えている。

名前の横顔越しに俺の様子を見ていた木暮が苦笑いでメガネをかけ直したのが分かった。



ピッピィィーーー


ワァ……ッ!!


試合終了の笛と同時に、今日一番の歓声が場内に響く。


「決まったね」


コートでは整列した選手たちが審判の合図で互いに礼をしていた。最後に差がついた両校の得点が、掲示板に光る。そして、盛り上がる海南ベンチとは対照的に静まり返る翔陽ベンチ。


「私、もっと頑張りたい」


16年連続インターハイ出場を決めた海南に惜しみない拍手が送られる中、パタン、とスコアを閉じてそう言った名前は、今まで見たことのない表情をしていた。きらきら、という言葉が一番近いのかもしれない。


「……頼りにしてるぞ、マネージャー」


彼女をそうさせたのはきっとあの二人のプレーだ。悔しいが今の俺では奴らに勝つことは出来ない。……しかし、絶対に追い越してやる。

そして俺もいつか……名前をこんな風に眩しい笑顔にさせることが、できるだろうか。



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