マネージャーの絆
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名前と彩子がマネージャーになると、バスケ部は美人が揃っていると噂され体育館には一目見ようという輩が毎日押しかけていた。それらを一切気にすることなく部活に励む女子二人を部員たちは誇らしげに思っていたし、俺も感心していた。
きゃあ……ッ!
練習が終わり解散の号令のあと、倉庫から聞こえた悲鳴に残っていた部員の数名が駆けつけた。俺や木暮もその聞き慣れた声に慌てて倉庫を覗くと、腰を抜かした名前とそれを取り囲む部員たちがいて、何やら周囲に目を向けている。
「う、嘘でしょ……」
「どうした名前?」
「剛憲……助けて、立てない」
「なんだって言うんだ」
彼女に近付き腕を取ると、思いの外軽くて簡単に持ち上がった。まだ少し覚束ない足取りで何かを警戒している様子の名前に悲鳴の理由を聞く。
するとなんてことはない、名前が用具を直している時に大きな蜘蛛が出ただけだと知り心配していた俺は大きな溜息をついた。たかが虫だろうと言いたい気もしたが、そういえば妹の晴子も家で小さな虫が出るだけで大騒ぎをしていたなと思い出す。女とは往々にして虫が苦手らしい。
「き、気をつけて、かなり大きい……」
その時、この間入部したばかりの1年の安田がギョッとした顔で叫んだ。
「赤木先輩っ 足元!!」
「……っ!」
咄嗟に避けたそこには、ちょっと普通では考えられないサイズの馬鹿でかい蜘蛛がいた。その大きな塊は俊敏な動きで部員たちの足元を這い回り、倉庫の中はパニックになる。
「わっ こっち来ないで……っ!」
「ちょっと、名前っ」
ただの虫とは訳が違う。男でも引くほどのサイズだ、名前が怖がるのも仕方がないとは思うが。
「名前……大丈夫だから、落ち着きなよ」
「も、もういない!?」
「今はいないって。ほ、ほら……頼むから離してくれ」
……だからと言って木暮に抱き着くのはどうなんだ?
さっきまで側にいたのは俺なのにとか、いつものクールなお前はどこにいったんだとか、グルグル考えながら自分でも動揺しているのが分かっていた。いや、別に、抱き着くなら俺だろうなんて思ってないが!
とにかく姿の見えなくなった蜘蛛よりも、木暮の背に思いっきりしがみついている名前の方が気になって困る。他の奴らも揃ってジィ、と二人の方を見つめていた。
「……こんなとこに集まって何してんですかあ?」
変な沈黙が続いていた空間に、飄々とした声が響いた。
スコアボードを片手に倉庫へ入ってきた彩子を1年生たちが慌てて止める。とんでもない大きさの蜘蛛がいるから気をつけろと口々に注意するが、彼女はそれらに「ふぅん」と呟くだけで、さっさと歩みを進めると片隅にあるモップをひとつ掴んだ。そしてグルリと倉庫内を見渡して、ある一点で目を光らせる。
「うげぇ……ホントにデカいわね」
部員や名前が息をのんで見守る中、口では嫌がりながらもまったく怯える様子も無く、サッと蜘蛛をモップに乗せて窓から外に放ってしまった彩子。
「「「「「おお……っ!」」」」」
その流れるような手さばきに、皆が感嘆する。
未だ名前がくっ付いている木暮の方へ視線をやれば、ようやく安心したのかそろそろと手を離し木暮に謝る彼女。そして彩子の側まで行くと、その手をぎゅう、と握りしめた。
「彩子ちゃん……いや彩子、男前だわ」
「任せてくださいよ名前先輩」
……なんだかよく分からないが、うちのマネージャーたちが仲良くやっていけそうで良かった。